No.457, No.456, No.455, No.454, No.453, No.452, No.4517件]

#TrendSync 四話
進捗 1155文字

「お祭り?」
「そう!」
 学校の休み時間。地域のお祭りのポスターを見せつけながら、翼は二人に声を掛けた。
「お祭りのステージに立つトレンドシンカーを募集してるんだって! ボクはもう申し込んだんだけど、二人のステージも見れたらもっと嬉しいから」
 朱希がふうん、と頷きながらスマホを操作する。開いたのはカレンダーアプリだ。何日? 再来週の土曜! いけるな、申し込むわ。ぽんぽんと二人の会話が続く。
「ももちゃんは?」
「えっ」
 桃音はここしばらく、トレンドシンカーとしてステージに立つための覚悟を決めあぐねていた。翼と朱希は当然みたいに凄くて、自分が同じステージに立って見劣りするのが怖かったのもそうだ。
「私は……」
 言葉に詰まる。翼は少しきょとんとしてから、仕方がないなというように笑って、話題を変えた。
「お母さんが、お姉ちゃんもお祭りに連れてきてくれるみたいなんだ」
「奏海さんが?」
「そう。ほら、お姉ちゃんって、ステージ好きでしょ。なにか変わったらいいなって」
「あ……」
 夕空奏海。翼の姉である彼女は、不協和の影と呼ばれる人々のステージを見て、心を壊した。
 それを見ることで心に不調を与えるステージをする人々をまとめて不協和の影と呼び、これは既に社会的な問題になっている。原因の早急な究明が急がれているが、進捗は芳しくはないらしかった。
「奏海さん元気?」
「うーん、変わらずかなあ」
「……そっか」
 奏海が心を壊した日。翼にも、奏海にも、なにもできなかったことを、悔やんでいた。
「じゃあ、私も……ステージ、出る!」
「ええっ」
 翼が首を傾げた。桃音は、翼と目を合わせて笑った。
「奏海お姉ちゃんに、見てほしいから」
 そう言えば、翼も嬉しそうに、少しだけ申し訳なさそうに笑った。

   *

「お姉ちゃん」
 お祭り前日。練習から帰宅した翼は奏海の部屋へと向かった。奏海は変わらず外を見ている。
 ぼんやりして、焦点の合わない瞳の中、彼女が何を考えているのかは、よく分からなかった。
「あのね、明日のお祭り、ボク、トレンドシンカーとして参加するんだ。朱希とももちゃんも一緒なの」
 奏海から返事はない。
「お姉ちゃん、まだ、ステージのこと、好きかな」
 奏海から返事はない。嫌というほど静かだった。
「楽しみにしてて、お姉ちゃん。最高のステージを届けるから」
 奏海は窓の外を見ている。ぼうっとした瞳の奥に隠れている感情を探し当てようとして、諦める。
 それからはしばらく今日あった面白いことや、楽しかったことの話をした。ある程度の話題が尽きたあたりで、翼は奏海の手を握る。
「……じゃあ、おやすみ、お姉ちゃん」
 こうすると安心するでしょ、と、いつぞや奏海が教えてくれた仕草を返す。これも習慣だった。
 自分の部屋に戻って、改めて窓の外を見た。星がきらきらと瞬いていて、こんな時まで能天気だなと思った。

   *

畳む

TrendSync!,文章