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SS / 風が描いた海の話
【 桃咲みか / 青羽ひとみ 】
空を駈けていく魚、ウィンドグライダーに乗って、誰かが今日も、戦っている。
ここは、光差す雲の上。魚と人間が護り続けた空中都市。
美しい街並み、スカイラヴィス。
私たちは、この広い世界で、きっとみんな、自分だけの海を探している。
風に乗って、どこまでも行こう。
私たちだけの海を探しに行こう。
・・・
「こんにちは。」
「……」
げ。そんな声が聞こえてきそうな顔で、その少女――――みかはこちらを見上げた。
それを見て、少し首を傾げて、ひとみは改めて、隣に座ってもいいかと彼女に問うた。
好きにしたらいいよ、とつっけんどんな返答にありがとう、と感謝を返し隣に座る。
みかにとっては、居心地が悪いことこの上なかった。
ざわざわとした室内。それでも、何人かがこちらの様子を伺っているのをなんとなく察することが出来て、それがとても嫌だった。
「桃崎さんだよね。ウミの絵を見たことがあるよ。素敵な絵だった。」
「……、だったらどうしたの。私もあなたの事は知ってるよ、青羽さん」
青羽ひとみ。セレスティア騎士学院から編入してきた、天才少女としての評判。人と関わりがほとんどなくても、嫌でも噂が耳に入った。
ひとみは、少し驚いたような顔をして、こう言った。
「知っていてくれてるの? 嬉しいな。……なんでそんな嫌そうな顔するの?」
「嫌味かなと思ってさ」
「そんなわけないでしょ」
怪訝そうにこちらを覗くひとみに、悪意は本当に無さそうだった。
それがよりタチが悪いように見えて、みかはそっと目を逸らした。
「それで、海の絵がなんだって?」
「ああ、そう。あれ、とても素敵だなと思ったんだ。どういう発想だったの?」
みかは目を伏せた。ひとみは言葉を続ける。
「私は、あれは地上の景色かなって思ったの。じゃないと、あんなに大きな水たまりは出来ないから。そこに、空にいるはずのウィンドグライダーみたいな生き物が泳いでた。地面よりももっと深いところを泳いでいたんだ。」
「……正直に言って、衝撃だったんだ。地上を見たことがあるんじゃないかって思ったくらい。」
「どうしてあの発想が出たの? 私、この学院に発想力がすごい子がいるって聞いた時、貴方しかいないと思ってたの。」
「……」
ひとつ、ため息が落ちた。それにより、少しの間ができた。少しして、みかが口を開く。
「風が教えてくれたの。私は、それを映し出しただけ。」
「あれは創作なんかじゃない。地上には海があって、魚が泳いでいて、夜になると、時折空を目指して飛び跳ねるの。」
「地上の絵はいくつも描いてきたけど、先生も、友達も、みんなあれを私の創作だ、発想だ、って言うんだ。あなたも今、その一人になった。」
「はあ、ほら、分かったでしょ。私に発想力なんてないの、もう関わらないでよね」
ふん。そっぽを向いて、荷物をまとめ直す。別の席に座ろう。これ以上、この人に付き合ってやる理由なんて、私にはない。
そうして立ち上がる。歩こうとして、ぐん、何かに引っ張られて、それは叶わなかった。
なにかではない。そこには、ひとみしかいない。
振り向けば、ひとみは興奮した面持ちで、それでも努めて冷静にこう言った。
「――――風の記憶を、この目で見てみたくはない?」
みかは静かに眉を寄せた。
「……なにを、馬鹿なことを」
「あるんでしょ。この世界のどこかに、海は存在するんだってあなたが言った。」
「じゃあ、見に行こうよ。それで、証明してやるんだ。私たちの魅せられた海は、創作なんかじゃないって」
真っ直ぐみかを見て、ひとみは言う。冗談には見えなかった。
そこで、チャイムが鳴る。考えておいて。そう言って、ひとみは手を離し、前を向き直した。
・・・
結果として、その後の授業は全然集中出来ずに終わった。聞かなくても問題ない範囲だったことだけがみかにとって救いだった。
海。
幼い頃から、風の声を聞くことが出来た。大人になるにつれ、会話を交わすことも、ごく稀にだができるようになった。
だからこそ、知っている。地上のこと。海のこと。昔こそ美しい光景が広がっていたはずの地上は、今や光も通さぬ雲に遮られ、真っ暗なのだと。
もう、風の教えてくれた、あの美しい海は存在しないかもしれない。
そう思うと、なぜだかとても苦しかった。でも、それをわざわざひとみに伝えてやる理由も無かった。
それでも。
もし、まだあの美しい海を見ることが出来るのなら、と、そこまで考えて、いやいや、と首を振る。
そもそも、子供二人が地上に降りるなんて前代未聞だ。危ないかもしれない。怒られるのも御免だ。
「……やっぱり」
諦めよう。断って、もう彼女とは関わらないように――――。
「あ、」
「うわあっ!?」
曲がり角。考え事をしていた分気付くのが遅れたみかは、思いっきりひとみの足を踏んづけた。
「ご、ごめん……!?」
「や、別に……そこまでじゃないよ。大丈夫」
「……そ、そう」
ひら。ひとみが手元に持っていた書類を振って、にこ、と笑う。
「そういえば。地上に降りるための許可証はもぎ取ってきたから。これでなんのしがらみもなく地上に降りれるよ。」
「っはあ!? 本気!? 地上に降りるためにはめちゃくちゃ厳しい審査が必要なんじゃなかった!? っていうか、そもそも騎士じゃないと無理なはず……!!」
「みかなら知ってるかもしれないけど、私は元々はセレスティア騎士学院に居たんだよね。」
「だ、だからって騎士の身分ってわけじゃ……!」
「それがそんなわけなんだよ。学院の無い時間は自由騎士なんだ。騎士学院で学べることはだいたい学んだからこっちに来たんだ。」
勿論みかの絵を見たからでもあるけど。平然と言ってのけるひとみに頭を抱えたくなった。
まるで嘘みたいな話だ。でもひとみは本当だと宣う。いやいやいや、そんなわけない。本当にそうなら、こいつこそフィクションの人間じゃないのか。
「……私を、信じてくれる?」
「ウワーーッッッ、心が痛むからその顔をやめろ! 確信犯でしょ!」
「バレちゃった」
「バレるよ!!!」
でも。
それ以外は特に嘘をついてる様子ではなかった。書類を偽造をするような……能力はあってもおかしくなさそうだけど、そこまで不誠実な人じゃないと信じるしかない。
「何かあったら、全部責任を取ってくれるのね?」
「もちろん。まかせて」
「……ふうん。なら、仕方なく、ついて行ってあげる。」
「あはは、ありがとうございますって言ったらいいの?」
「知らないわよ、好きにして」
「じゃあ、来週のお休みの日に飛ぼう。楽しみにしてて。」
少しの間が空く。みかは、なにかを言おうとして、諦めた。そのかわり、呆れたように笑った。
・・・
あっという間に、当日になった。
「おいで。」
「わあ……!」
ひとみは、カジキやイルカを思わせる、流線型のスマートな身体を持つウィンドグライダーを呼び寄せて、みかに向きなおる。
「みか、この子が私のパートナーなの。名前はブルーライゾン。長いからブルーでいいよ」
「……私、ウィンドグライダーをこんなに間近で見たの、始めて」
みかはまじまじとブルーを見つめた。ブルーはその体を魅せるように、その場で一回転してみせた。
「ブルー、今日はよろしくね」
ブルーは、みかに返事をするようにもう一度くるりと回った。
「じゃあ、行こうか。その道までに空賊が出てくるかもしれないから、その時は私から離れないでね。」
ひとみはそう言いながら、美しい形をした青白く輝く槍をブルーライゾンに持たせた。
軽快な動作でその上に跨り、みかに振り返る。みかは、慌ててその上にゆっくりと跨った。
最初はゆっくり進んでいたその道行も、徐々にスピードを上げていく。
その最中、何度か空賊の傍を通ったが、周囲の大人たちがそれらを片付ける手伝いをしてくれたため、ひとみが戦うことは無かった。
私が無茶を言って子供二人で行くと言い張ったから、みんなが手を回しておいてくれたのだろう、とひとみは笑っていた。
彼女には、仲間が沢山いるのだろうな、と少し羨ましくなった。
そうこうしているうちに、目的のポイントまで到達したらしい。
「昔の地図をね、貰ってきたんだ。って言っても今どれくらいこれが正しいかは分からないんだけど……」
そう言いながら地図と空図を見比べる。よし、ここだ。なんて確認してから、ひとみはこちらを振り向いた。
「今からこの雲を突っ切るんだ。突っ切った先は真っ暗だから、光を用意してくれる?」
「……え」
やっぱり、真っ暗なんだ。少し不安な気持ちになりながら、ここまで来て引き返すのも良くない、と思い直して頷いた。
行くよと、ひとみの合図でブルーは斜め下に向かって降りていった。ぐんぐんと下に下に、雲を突っ切っていく。
――――辺りが、徐々に暗くなっていく。今だよ、とひとみが指だけで合図した。
「エルナ・ガルダ・ス!」
みかが呪文を唱えれば、光がブルーの周りを照らし出した。
まだ、雲の中だ。
ぐんぐんぐんぐん。下へ下へ、もっと下へ。
勢いは止まらない。分厚い雲はまだ先も見通せない。
それでも、終わりは来る。
「サリス・メリア・ス!」
ひとみの声がした。その瞬間――――、
雲が明ける。光が溢れる。思わず目を瞑って、……けれど、光が溢れていた。
いや、待て。そんなはずは無いと、必死で目を開けた。光で何も見えなかった。目が慣れるまで、その光をずっと睨んでいた。
その間も、ブルーはずっと下へ降りているようだった。
ようやく目が慣れた頃にはもう、海はすぐそばにあった。沢山の光が私たちの周りを浮いて、空に飛んでいく。それはまるで灯篭のようで、星のようで、全てが風のおとぎ話のようで、とにかく美しかった。
「……、す、すごい……!」
「私、魔法を拡散するのが得意なんだ」
ひとみの自慢げな声がしたのを聞いてから、自分の口からはしゃいだ声が出たのに気付いて、少し恥ずかしくなった。
ざざ。そんな音を立てて、ブルーは地面に到着する。静かに風が吹いていた。この風なら、地上で野宿しなくとも直ぐに空に帰れるだろうね、とひとみが言った。
みかは、もうそんなことはどうでも良くなっていて、夢中で海に向かって走っていった。初めて踏みしめる砂は、思ったより歩きにくかった。
寄せては返す波の音がする。潮の匂い。水飛沫は光となって、空に向かって登っていく。
全てがリアルで、夢物語のようで、信じられない気持ちでしばらく黙って眺めていた。
ひとみはそれを邪魔しなかった。
「――――絵が描きたいな。」
どれだけの時間が経ったか。ぽつり。そう零した自分の言葉で、ようやく我に返った。
「あ〜……、桃咲さんは……持ってきた? スケッチブックとか……」
横からひとみが小首を傾げてそう聞いた。みかは、それら全てを持って来なかったことを心から悔やんでいた。
「……青羽さんも持ってきてないの?」
「あ〜、実は、楽しみすぎて忘れちゃってたんだ……。」
困ったように頬をひとつかいて、ひとみは答えた。それなら、この景色を焼き付けるまでだとみかはもう一度海に向き直った。
それを見ながら、ひとみはぽつりと言葉を零した。
「桃咲さんの海が、本物なんだ、って一緒に知れてよかった。今までは地上に興味なんてなかったんだ」
「……そういえば、申請すれば来れちゃう身分だったんだっけ。」
「そうそう。今までは興味なかったし、子供だから、ってことで探索班からは外れてたの」
「ふうん……。」
「あとは……、答えを知るのが怖くて。私には風の声は聞こえないから、地上のことは……どうしても、想像するしかなくてさ。ほら、想像するのってワクワクするじゃん。」
「でも、答えを知ることで今までの私の想像が全部だめになっちゃう気がしてさ。」
その気持ちは、分からなくもなかった。みかは、海を眺めながらそれを静かに聞いていた。
「だけど、先輩方から聞いてはいたんだよね。『大きな水たまり』の話とかさ。」
「だから、それが海である可能性に賭けたの。それで桃咲さんの絵を肯定できるならと思って」
「私、桃咲さんの絵が好きなんだ。表現の仕方も、題材も、全部全部」
「だから、これからも絵を描いてね。全部本物だって私が信じるから。」
足りないかもしれないけど。そう言って困ったようにひとみは笑った。
みかは、少し不思議な心地になった。でも、何も言わなかった。代わりに、
「……ありがと」
そう言って、照れ臭そうに笑った。
・・・
満足いくまで海を眺めて、そろそろ帰ろうかとブルーに跨り、学院に帰り着く頃にはすっかり日も暮れてくたくたになっていた。
先生たちが2人を出迎えて、暖かいご飯を食べて、それからは、2人とも夜遅くまで作品の制作をした。
それは、美しい海の絵と、その中にまで想像を巡らせた、ちいさな物語だった。
衝動だったと、次の日の2人は語った。
あの日、あの時、あの瞬間見たあの景色は、確かに私たちだけのものだった。
みかは、風のおとぎ話を誰かに話したくて作品を制作しているのかもしれない、と、改めて自分の創作の意義を知った。
後日、地上に再び行くために、護身術を学びたいのだとひとみに頼み込んで、一緒にウィンドグライダーに乗り込むふたりの姿があったりするのだが、それはまた、別のお話。畳む
【 桃咲みか / 青羽ひとみ 】
空を駈けていく魚、ウィンドグライダーに乗って、誰かが今日も、戦っている。
ここは、光差す雲の上。魚と人間が護り続けた空中都市。
美しい街並み、スカイラヴィス。
私たちは、この広い世界で、きっとみんな、自分だけの海を探している。
風に乗って、どこまでも行こう。
私たちだけの海を探しに行こう。
・・・
「こんにちは。」
「……」
げ。そんな声が聞こえてきそうな顔で、その少女――――みかはこちらを見上げた。
それを見て、少し首を傾げて、ひとみは改めて、隣に座ってもいいかと彼女に問うた。
好きにしたらいいよ、とつっけんどんな返答にありがとう、と感謝を返し隣に座る。
みかにとっては、居心地が悪いことこの上なかった。
ざわざわとした室内。それでも、何人かがこちらの様子を伺っているのをなんとなく察することが出来て、それがとても嫌だった。
「桃崎さんだよね。ウミの絵を見たことがあるよ。素敵な絵だった。」
「……、だったらどうしたの。私もあなたの事は知ってるよ、青羽さん」
青羽ひとみ。セレスティア騎士学院から編入してきた、天才少女としての評判。人と関わりがほとんどなくても、嫌でも噂が耳に入った。
ひとみは、少し驚いたような顔をして、こう言った。
「知っていてくれてるの? 嬉しいな。……なんでそんな嫌そうな顔するの?」
「嫌味かなと思ってさ」
「そんなわけないでしょ」
怪訝そうにこちらを覗くひとみに、悪意は本当に無さそうだった。
それがよりタチが悪いように見えて、みかはそっと目を逸らした。
「それで、海の絵がなんだって?」
「ああ、そう。あれ、とても素敵だなと思ったんだ。どういう発想だったの?」
みかは目を伏せた。ひとみは言葉を続ける。
「私は、あれは地上の景色かなって思ったの。じゃないと、あんなに大きな水たまりは出来ないから。そこに、空にいるはずのウィンドグライダーみたいな生き物が泳いでた。地面よりももっと深いところを泳いでいたんだ。」
「……正直に言って、衝撃だったんだ。地上を見たことがあるんじゃないかって思ったくらい。」
「どうしてあの発想が出たの? 私、この学院に発想力がすごい子がいるって聞いた時、貴方しかいないと思ってたの。」
「……」
ひとつ、ため息が落ちた。それにより、少しの間ができた。少しして、みかが口を開く。
「風が教えてくれたの。私は、それを映し出しただけ。」
「あれは創作なんかじゃない。地上には海があって、魚が泳いでいて、夜になると、時折空を目指して飛び跳ねるの。」
「地上の絵はいくつも描いてきたけど、先生も、友達も、みんなあれを私の創作だ、発想だ、って言うんだ。あなたも今、その一人になった。」
「はあ、ほら、分かったでしょ。私に発想力なんてないの、もう関わらないでよね」
ふん。そっぽを向いて、荷物をまとめ直す。別の席に座ろう。これ以上、この人に付き合ってやる理由なんて、私にはない。
そうして立ち上がる。歩こうとして、ぐん、何かに引っ張られて、それは叶わなかった。
なにかではない。そこには、ひとみしかいない。
振り向けば、ひとみは興奮した面持ちで、それでも努めて冷静にこう言った。
「――――風の記憶を、この目で見てみたくはない?」
みかは静かに眉を寄せた。
「……なにを、馬鹿なことを」
「あるんでしょ。この世界のどこかに、海は存在するんだってあなたが言った。」
「じゃあ、見に行こうよ。それで、証明してやるんだ。私たちの魅せられた海は、創作なんかじゃないって」
真っ直ぐみかを見て、ひとみは言う。冗談には見えなかった。
そこで、チャイムが鳴る。考えておいて。そう言って、ひとみは手を離し、前を向き直した。
・・・
結果として、その後の授業は全然集中出来ずに終わった。聞かなくても問題ない範囲だったことだけがみかにとって救いだった。
海。
幼い頃から、風の声を聞くことが出来た。大人になるにつれ、会話を交わすことも、ごく稀にだができるようになった。
だからこそ、知っている。地上のこと。海のこと。昔こそ美しい光景が広がっていたはずの地上は、今や光も通さぬ雲に遮られ、真っ暗なのだと。
もう、風の教えてくれた、あの美しい海は存在しないかもしれない。
そう思うと、なぜだかとても苦しかった。でも、それをわざわざひとみに伝えてやる理由も無かった。
それでも。
もし、まだあの美しい海を見ることが出来るのなら、と、そこまで考えて、いやいや、と首を振る。
そもそも、子供二人が地上に降りるなんて前代未聞だ。危ないかもしれない。怒られるのも御免だ。
「……やっぱり」
諦めよう。断って、もう彼女とは関わらないように――――。
「あ、」
「うわあっ!?」
曲がり角。考え事をしていた分気付くのが遅れたみかは、思いっきりひとみの足を踏んづけた。
「ご、ごめん……!?」
「や、別に……そこまでじゃないよ。大丈夫」
「……そ、そう」
ひら。ひとみが手元に持っていた書類を振って、にこ、と笑う。
「そういえば。地上に降りるための許可証はもぎ取ってきたから。これでなんのしがらみもなく地上に降りれるよ。」
「っはあ!? 本気!? 地上に降りるためにはめちゃくちゃ厳しい審査が必要なんじゃなかった!? っていうか、そもそも騎士じゃないと無理なはず……!!」
「みかなら知ってるかもしれないけど、私は元々はセレスティア騎士学院に居たんだよね。」
「だ、だからって騎士の身分ってわけじゃ……!」
「それがそんなわけなんだよ。学院の無い時間は自由騎士なんだ。騎士学院で学べることはだいたい学んだからこっちに来たんだ。」
勿論みかの絵を見たからでもあるけど。平然と言ってのけるひとみに頭を抱えたくなった。
まるで嘘みたいな話だ。でもひとみは本当だと宣う。いやいやいや、そんなわけない。本当にそうなら、こいつこそフィクションの人間じゃないのか。
「……私を、信じてくれる?」
「ウワーーッッッ、心が痛むからその顔をやめろ! 確信犯でしょ!」
「バレちゃった」
「バレるよ!!!」
でも。
それ以外は特に嘘をついてる様子ではなかった。書類を偽造をするような……能力はあってもおかしくなさそうだけど、そこまで不誠実な人じゃないと信じるしかない。
「何かあったら、全部責任を取ってくれるのね?」
「もちろん。まかせて」
「……ふうん。なら、仕方なく、ついて行ってあげる。」
「あはは、ありがとうございますって言ったらいいの?」
「知らないわよ、好きにして」
「じゃあ、来週のお休みの日に飛ぼう。楽しみにしてて。」
少しの間が空く。みかは、なにかを言おうとして、諦めた。そのかわり、呆れたように笑った。
・・・
あっという間に、当日になった。
「おいで。」
「わあ……!」
ひとみは、カジキやイルカを思わせる、流線型のスマートな身体を持つウィンドグライダーを呼び寄せて、みかに向きなおる。
「みか、この子が私のパートナーなの。名前はブルーライゾン。長いからブルーでいいよ」
「……私、ウィンドグライダーをこんなに間近で見たの、始めて」
みかはまじまじとブルーを見つめた。ブルーはその体を魅せるように、その場で一回転してみせた。
「ブルー、今日はよろしくね」
ブルーは、みかに返事をするようにもう一度くるりと回った。
「じゃあ、行こうか。その道までに空賊が出てくるかもしれないから、その時は私から離れないでね。」
ひとみはそう言いながら、美しい形をした青白く輝く槍をブルーライゾンに持たせた。
軽快な動作でその上に跨り、みかに振り返る。みかは、慌ててその上にゆっくりと跨った。
最初はゆっくり進んでいたその道行も、徐々にスピードを上げていく。
その最中、何度か空賊の傍を通ったが、周囲の大人たちがそれらを片付ける手伝いをしてくれたため、ひとみが戦うことは無かった。
私が無茶を言って子供二人で行くと言い張ったから、みんなが手を回しておいてくれたのだろう、とひとみは笑っていた。
彼女には、仲間が沢山いるのだろうな、と少し羨ましくなった。
そうこうしているうちに、目的のポイントまで到達したらしい。
「昔の地図をね、貰ってきたんだ。って言っても今どれくらいこれが正しいかは分からないんだけど……」
そう言いながら地図と空図を見比べる。よし、ここだ。なんて確認してから、ひとみはこちらを振り向いた。
「今からこの雲を突っ切るんだ。突っ切った先は真っ暗だから、光を用意してくれる?」
「……え」
やっぱり、真っ暗なんだ。少し不安な気持ちになりながら、ここまで来て引き返すのも良くない、と思い直して頷いた。
行くよと、ひとみの合図でブルーは斜め下に向かって降りていった。ぐんぐんと下に下に、雲を突っ切っていく。
――――辺りが、徐々に暗くなっていく。今だよ、とひとみが指だけで合図した。
「エルナ・ガルダ・ス!」
みかが呪文を唱えれば、光がブルーの周りを照らし出した。
まだ、雲の中だ。
ぐんぐんぐんぐん。下へ下へ、もっと下へ。
勢いは止まらない。分厚い雲はまだ先も見通せない。
それでも、終わりは来る。
「サリス・メリア・ス!」
ひとみの声がした。その瞬間――――、
雲が明ける。光が溢れる。思わず目を瞑って、……けれど、光が溢れていた。
いや、待て。そんなはずは無いと、必死で目を開けた。光で何も見えなかった。目が慣れるまで、その光をずっと睨んでいた。
その間も、ブルーはずっと下へ降りているようだった。
ようやく目が慣れた頃にはもう、海はすぐそばにあった。沢山の光が私たちの周りを浮いて、空に飛んでいく。それはまるで灯篭のようで、星のようで、全てが風のおとぎ話のようで、とにかく美しかった。
「……、す、すごい……!」
「私、魔法を拡散するのが得意なんだ」
ひとみの自慢げな声がしたのを聞いてから、自分の口からはしゃいだ声が出たのに気付いて、少し恥ずかしくなった。
ざざ。そんな音を立てて、ブルーは地面に到着する。静かに風が吹いていた。この風なら、地上で野宿しなくとも直ぐに空に帰れるだろうね、とひとみが言った。
みかは、もうそんなことはどうでも良くなっていて、夢中で海に向かって走っていった。初めて踏みしめる砂は、思ったより歩きにくかった。
寄せては返す波の音がする。潮の匂い。水飛沫は光となって、空に向かって登っていく。
全てがリアルで、夢物語のようで、信じられない気持ちでしばらく黙って眺めていた。
ひとみはそれを邪魔しなかった。
「――――絵が描きたいな。」
どれだけの時間が経ったか。ぽつり。そう零した自分の言葉で、ようやく我に返った。
「あ〜……、桃咲さんは……持ってきた? スケッチブックとか……」
横からひとみが小首を傾げてそう聞いた。みかは、それら全てを持って来なかったことを心から悔やんでいた。
「……青羽さんも持ってきてないの?」
「あ〜、実は、楽しみすぎて忘れちゃってたんだ……。」
困ったように頬をひとつかいて、ひとみは答えた。それなら、この景色を焼き付けるまでだとみかはもう一度海に向き直った。
それを見ながら、ひとみはぽつりと言葉を零した。
「桃咲さんの海が、本物なんだ、って一緒に知れてよかった。今までは地上に興味なんてなかったんだ」
「……そういえば、申請すれば来れちゃう身分だったんだっけ。」
「そうそう。今までは興味なかったし、子供だから、ってことで探索班からは外れてたの」
「ふうん……。」
「あとは……、答えを知るのが怖くて。私には風の声は聞こえないから、地上のことは……どうしても、想像するしかなくてさ。ほら、想像するのってワクワクするじゃん。」
「でも、答えを知ることで今までの私の想像が全部だめになっちゃう気がしてさ。」
その気持ちは、分からなくもなかった。みかは、海を眺めながらそれを静かに聞いていた。
「だけど、先輩方から聞いてはいたんだよね。『大きな水たまり』の話とかさ。」
「だから、それが海である可能性に賭けたの。それで桃咲さんの絵を肯定できるならと思って」
「私、桃咲さんの絵が好きなんだ。表現の仕方も、題材も、全部全部」
「だから、これからも絵を描いてね。全部本物だって私が信じるから。」
足りないかもしれないけど。そう言って困ったようにひとみは笑った。
みかは、少し不思議な心地になった。でも、何も言わなかった。代わりに、
「……ありがと」
そう言って、照れ臭そうに笑った。
・・・
満足いくまで海を眺めて、そろそろ帰ろうかとブルーに跨り、学院に帰り着く頃にはすっかり日も暮れてくたくたになっていた。
先生たちが2人を出迎えて、暖かいご飯を食べて、それからは、2人とも夜遅くまで作品の制作をした。
それは、美しい海の絵と、その中にまで想像を巡らせた、ちいさな物語だった。
衝動だったと、次の日の2人は語った。
あの日、あの時、あの瞬間見たあの景色は、確かに私たちだけのものだった。
みかは、風のおとぎ話を誰かに話したくて作品を制作しているのかもしれない、と、改めて自分の創作の意義を知った。
後日、地上に再び行くために、護身術を学びたいのだとひとみに頼み込んで、一緒にウィンドグライダーに乗り込むふたりの姿があったりするのだが、それはまた、別のお話。畳む
ふたつの翼、ひとつの空
作品概要
空を駈ける。駈ける。
美しい街並み、スカイラヴィス。
ぼくたちは、この空を守る騎士であり、冒険者だ。
風に乗って、どこまでも行こう。
きっとぼくたちを、素敵な冒険が待ち受けている!
簡易用語説明
○スカイラヴィスとは
スカイラヴィスは、果てしない「雲の大海」の上に浮かぶ空の国である。無数の浮遊島が点在し、それらは常に風の流れに乗って移動している。住民はこの島々で生活し、ウィンドグライダーを利用した空中輸送、交易、冒険が日常となっている。
住民たちは「風がすべて」という価値観を持ち、風を崇拝し、風と共に生きている。空の世界では風の流れを読むことが生活や移動の基盤となり、魔法、技術、文化すべてが風と密接に結びついている。
畳む
○風と空の生態系
スカイラヴィスの環境は、特殊な風の力によって支えられている。島々はただ浮いているのではなく、エアエーテルと呼ばれる魔法的な風の力によって安定している。エアエーテルは空気中に満ちており、ウィンドグライダーの飛行や魔法の発動にも関わっている。
畳む
○ウィンドグライダーとは
ウィンドグライダーとは、スカイラヴィスの空を自由に泳ぐ生き物であり、冒険者や騎士にとって欠かせない相棒である。その姿は魚や鳥に似ており、風を受けて滑るように飛行する。体は半透明で、風のエネルギーを取り込むと虹色に輝くことがある。
スカイラヴィスの人々は、ウィンドグライダーを単なる乗り物ではなく、「風と共に生きる仲間」として扱う。人とウィンドグライダーは強い絆で結ばれており、「風翼盟約」と呼ばれる契約を交わすことで、互いの力を最大限に引き出すことができる。
ウィンドグライダーは風を操る能力を持ち、魔法のような特殊な飛行能力を発揮する。風をまとって加速したり、空中で方向転換したり、流れに乗ることで疲れることなく長距離を移動できる。個体によって異なる能力を持ち、それが冒険者の戦い方や移動手段に大きく影響を与える。
畳む
○ 風翼の誓い
ウィンドグライダーに乗るには、それなりに素質が必要である。いわば、免許のようなものだ。
契約を交わすことで、冒険者は「風翼盟約」を得ることができる。この盟約を結ぶことで、冒険者はウィンドグライダーに乗ることと、ウィンドグライダーを使役すること、ふたつの許可が王宮から得られる。
風翼の誓いは生半可な気持ちでは結べず、ウィンドグライダーと深い信頼関係を築く必要がある。そのため、ウィンドグライダーとの生活を通じて、お互いを理解することが重要となる。
畳む
○スカイラヴィスにおける戦闘
スカイラヴィスの民は強靭である。ちょっとやそっとのことでは死なない。そのため、戦闘が娯楽として扱われている。もちろん本気で命を狙ってくる空賊も居るが、基本的には冒険者や騎士たちにとってのゲームのようなものである。
畳む
○風の信仰と宗教
スカイラヴィスに生きる者たちにとって、「風」は生命そのものであり、神聖な存在として崇められている。人々は風の流れを敬い、風とともに生きることを誓う。そのため、スカイラヴィスには独自の宗教や信仰体系が存在し、風を司る神々や儀式が文化の根幹を成している。
畳む
○風に関する祭典と行事
風の流れを祝う祭典は、スカイラヴィスの文化に深く根付いている。
◆風の祭典
・一年に一度、スカイラヴィス全土で開かれる祭典。
・すべてのウィンドグライダーが空へ舞い上がり、美しい風の模様を描く。
・王都では、ゼフィル大聖堂で「風の祝福の儀式」が執り行われる。
◆風の誓約の日
・ウィンドグライダーと契約を結ぶ日。
・騎士学院の生徒が正式に「風翼の誓い」を交わす。
◆風の誕生祭
・赤ん坊が生まれた際に行われる儀式。
・神官が「風の名」を授け、その子の運命を占う。
畳む
○王都セレスティアについて
スカイラヴィスの中心に位置する巨大な浮遊都市であり、政治・文化・学問の中心地である。王宮、騎士学院、各種行政機関が集まるスカイラヴィスの心臓部であり、多くの人々が行き交う賑やかな空中都市である。王都自体が大きな浮遊島であり、風の力によって安定して浮かび続けている。
★王都の概要
位置:スカイラヴィスのほぼ中央。全ての浮遊島の交点となる地点にある。
・役割:スカイラヴィスの首都として、王族、貴族、騎士、学者、商人などが集う都市。
・特徴:都市全体が「風の盾」に包まれており、安定した環境が維持されている。主要な浮遊島との接続点となっており、多数のウィンドグライダーが行き交う。空中庭園や巨大な風車塔など、美しい景観を誇る。
風の神ゼフィルを祀る大聖堂が存在し、風の祝福を受ける場として機能している。
畳む
○王都の構造と主要施設
王都セレスティアは大きく四つの区域に分かれている。
◆王城区(セレスティア宮殿)
スカイラヴィスの王族が住まう王城がある区画。王政の中枢であり、政治の中心でもある。
・セレスティア宮殿
王と王族が住む宮殿。風の流れを意識した設計が施されており、白い塔が連なる美しい建築が特徴。
宮殿の最上部には「風の玉座」があり、歴代の王がスカイラヴィスの風を統べる者として君臨する。
「天空の回廊」 と呼ばれる空中庭園が広がり、王族や貴族たちが憩う場所になっている。
・政務庁
王宮の隣に位置する政治機関。スカイラヴィス全土の行政を司る。
各浮遊島の代表者が集い、風の流れや異常気象、島々の移動計画などを議論する。
・風の神殿(ゼフィル大聖堂)
風の神ゼフィルを祀る大聖堂。王族の戴冠式や「風の誓い」の儀式が行われる神聖な場所。
天井が開放されており、風の流れを肌で感じることができる。
◆騎士学院区(セレスティア騎士学院)
王都の中核を成す区域であり、セレスティア騎士学院がそびえ立つ。
・セレスティア騎士学院
王都最大の教育機関であり、騎士や冒険者を育成する学校。
風翼騎士団の士官候補生や、冒険者を目指す若者たちが訓練を受ける。
・天空訓練場
ウィンドグライダーを使った実戦訓練が行われる巨大な訓練場。
「風の槍試合」 などの決闘大会が開催される。
・剣技道場
近接戦闘の訓練場。騎士見習いたちが日々鍛錬に励む場所。
・風の塔(作戦本部)
風翼騎士団の作戦指揮所。戦略会議や騎士団の運営が行われる。
◆商業・居住区
王都で最も人が集まるエリアであり、商人や一般市民、職人たちが暮らす賑やかな地域。
・セレスティア中央広場
王都の中心部に位置し、多くの商人が集う広場。市場や祭典の会場としても使用される。
「風の祭典」が開催される場所でもあり、年に一度、華やかな空中ショーが行われる。
・浮遊市場
様々な島からの交易品が集まる市場。スカイラヴィス全土の名産品やウィンドグライダーの装備が売買される。
・エアメタル工房
ウィンドグライダーの装備や騎士の武具を作る工房。
・冒険者のギルド支部
風渡りのギルドが運営する冒険者の拠点。ここで依頼を受け、遠征準備を整える。
・居住区
一般市民や商人が暮らすエリア。風の流れを考慮した住居が並ぶ。
◆外縁部・防衛施設
王都の周囲には、外敵や空賊、暴風から都市を守るための防衛施設が配置されている。
・風の壁
王都を取り囲む巨大な魔法障壁。風の力によって形成され、敵の侵入を防ぐ。
・スカイガード砦
風翼騎士団の駐屯地。王都を巡回する騎士たちが常駐している。
・浮遊砲台
王都の外縁部に設置された防衛砲台。敵の襲撃時に「音速砲(ソニックキャノン)」で迎撃する。
・飛空艇港
王都最大の飛空艇港。貴族や商人たちの専用船が停泊している。畳む
○セレスティア騎士学院 〜空を駆ける騎士の育成〜
・概要
スカイラヴィスの空を守る騎士を養成する学院であり、王都セレスティアに本拠を置く。ウィンドグライダーを自在に操る技術、風魔法の応用、剣技や戦術を学び、卒業後は 「風翼騎士団」 や自由騎士として活躍する者が多い。
◆特徴
・実戦重視のカリキュラム:学院の教育は、実戦で役立つ技術を重視し、特にウィンドグライダーとの空中戦や風魔法を駆使した剣技に重点を置く。
・歴史と伝統を重視:古き良き騎士道を重んじ、名門家系の子弟も多く在籍する。
◆主要施設
・天空訓練場:広大な空間で、ウィンドグライダーを駆って戦う実技訓練が行われる。
・剣技道場:剣術、槍術、風を用いた近接戦闘を鍛える場。
・戦略講堂:空中戦の戦術や部隊指揮を学ぶ場所。
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○エアリス魔法学院 〜風の流れを読み解く魔導士の学び舎〜
・概要
スカイラヴィスの 「風と星の魔法」 を学ぶ最高学府。風の流れやエアエーテルの研究、古代魔法の解析を行う。学院はスカイラヴィスで最も高所に位置し、空と星の力を最大限に活かせる環境が整えられている。
◆特徴
・風魔法と星の魔法の研究:風を操る魔法、空間転移、天候制御など、スカイラヴィスの環境に特化した魔法を学ぶ。
・占星術と未来予知:星の流れを読み、未来を占う学問も発達している。
・古代の秘術:封印された古代魔法の解析が行われている。
◆主要施設
・風の試練場:魔法訓練のための施設。嵐や強風のシミュレーションが可能。
・浮遊庭園:魔法植物の栽培や、風精霊との交流を行う場所。
・エアエーテル研究所:風のエネルギーを研究し、魔法理論を深める施設。
・星の天文台:星の道を観測し、占星術や天体魔法の研究を行う。
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○ストームギア技術学院 〜空を支える技術者と発明家の砦〜
・概要
スカイラヴィスにおける 魔導技術と機械工学の中心地。ウィンドグライダーの改良、浮遊船の開発、風力エンジンの研究など、科学と魔法の融合を追求する。技術学院の発明品は冒険者や騎士団の活動を支え、スカイラヴィスの発展に大きく貢献している。
◆特徴
・機械と魔法の融合:魔導機械の開発が盛んであり、「飛行装置」や「風力武器」の発明が進められている。
・実験と実践:「風洞実験場」など、実際の風環境を再現してテストを行う施設が充実。
・冒険者向けの装備開発:ウィンドグライダーの装備の改造や、空中戦に適した武器の開発を手掛ける。
◆主要施設
・ギアラボ:ウィンドグライダーや浮遊船の開発を行う巨大な作業場。
・ストームタワー:嵐のエネルギーを採取し、魔導装置の研究を行う塔。
・エーテル工房:エアエーテルを動力としたエンジンや武器を開発する施設。
・風洞実験場:強風を再現し、機械の耐久性をテストするための施設。
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○ゼフィルアート学院 〜風と光を描く芸術家の聖地〜
・概要
スカイラヴィスの 芸術と文化を育む学院。音楽、絵画、彫刻、舞踊、詩作など、「風と光」をテーマにした芸術表現を学ぶ。ゼフィルアート学院は スカイラヴィスの外縁部に位置し、常に穏やかな風が流れる浮遊島 に存在する。
◆特徴
・風の流れと調和する芸術:風の音や空の色彩を取り入れた表現が重視される。
・魔法と芸術の融合:「光の絵画」「風と共鳴する楽器」など、魔導技術を応用した芸術が発展。
・風の祭典の中心:スカイラヴィス最大の文化祭「風の祭典」の企画・運営を担う。
◆主要施設
・風奏ホール:音楽や舞踊の公演が行われるホール。風を使った楽器の演奏が特徴的。
・光彩ギャラリー:生徒の作品が展示される美術館。
・創風アトリエ:自由に創作活動ができる広大なアトリエ。
・天空舞台:風を利用したダンスや演劇が披露される屋外ステージ。
・詩歌の塔:風と光を感じながら詩作や文章創作を行う静かな塔。
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○呪文について
魔法を使用する際、簡単な呪文が必要になってくる。呪文の内容は人それぞれだが、基本はひとつ、「産まれた時から知っている、1番馴染みのある音の集まり」だ。
これらの呪文は古代魔法に由来しており、実は意味のある言葉なのだが、古代文字が忘れ去られた今、それを解読・理解出来るものはいない。
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登場人物
〇シーア
年齢:16歳 性別:女性
身長:155cm
所属:セレスティア騎士学院
ウィンドグライダー:ヴァルカ
口調:「私」「あんた」「おまえ」「○○さん」
呪文:トゥラン・ヴォラ・ス
嵐よ、力強く舞い上がれ!
騎士学校に在籍する、冒険者を目指す少女。サーヤの双子の姉。
慌ただしくて騒がしい。元孤児で、冒険家の養父に憧れており、いつかお父様のようになるのだといつも豪語している。普段は祖父母に面倒を見られている。貴族のような教養や礼儀作法は苦手で、気が強く直感的な性格のため、思ったことはすぐに口に出してしまう。しかし、誰よりも家族や仲間を大切にし、困っている人を放っておけない。
めげない しょげない あきらめない!
負けん気が強いからか、努力の成果で戦うことにおいて右に出るものは居ないほど。双剣を使うことを得意としており、力よりは速度で押してくる。
実はウィンドグライダーの操作が苦手で、何度も墜落しかけたが、しかし、「転んでも立ち上がる」という彼女らしさがここでも発揮され、少しずつ上達していった。転んで見える隙を「フェイント」として利用し、相手の虚を突く戦術を得意とする。
小回りが効く双剣を活かして、相手の懐に飛び込み、一撃を決める「一瞬の集中力」に秀でている。
「いつでも頼ってくれていいのよ、シーア!」
「お父様はすごいひとなんだからっ、いつか私もお父様のようになるのよ!……なあに、その顔。すぐ転けるのに冒険は無理?なんですって!?絶対なってみせるんだから〜〜〜〜ッ」
「いいこと? 陰口なんてだっさい真似するくらいなら戦いましょう、文句は私に勝ってからにしなさい!」
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〇サーヤ
年齢:16歳 性別:女性
身長:155cm
所属:セレスティア騎士学院
ウィンドグライダー:ティネラ
口調:「ぼく」「きみ」「○○ちゃん」「○○さん」
呪文:トゥラン・リファル・ヴィノ・ス
嵐よ、吹き荒れろ!
自分に自信のない女の子。シーアの双子の妹。
活動的でただではめげない姉の強さに憧れており、振り回されつつも彼女の隣で同じ世界を見られて嬉しいと思っている。
いつも持ち歩いている大きな鞄には姉のために用意した小物やおやつがたくさん入ってる。
昔は体が弱かった影響か、本を読むこととお話を聞くことが好き。今は元気!
ウィンドグライダーの操縦が上手く、タンクとしてとても優秀。耐えるよりはくるくる避けて翻弄してくるテクニカルなタイプ。ウィンドグライダーを巧みに使い、空中を滑るように移動しながら、敵の攻撃をかわしたり、相手をじらして翻弄し、敵の動きを見切って「罠」に誘い込む戦術を得意とする。サポート役として優秀で、姉の危機を察知して即座にカバーする柔軟さを持つ。
「うん、シーアもぼくに頼ってくれていいからね。」
「この絆創膏はシーアが転んだとき用。こっちのあめ玉はシーアが小腹空かせたとき用。こっちは〜」
「ぼくたちのお父さんは冒険家なの。お父さんが話してくれたものを自分の目で見ることがぼくの夢なんだ。もちろん、シーアと一緒にね」
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〇リアム
年齢:16歳 性別:男性
身長:157cm
所属:セレスティア騎士学院
ウィンドグライダー:ノーヴァ
口調:「俺」「お前」「呼び捨て」「○○さん」
呪文:ゼフィ・アーラ・ト・ガルダ・ス!
風よ、空へ向かって飛べ!
騎士学校に在籍する、騎士を目指す少年。シーアのことが好き。
類は友を呼ぶと言うべきか、慌ただしく騒がしい。シーア、サーヤとは中学まで同じ学校だったため、それなりに気心は知れている。が、好きが故に意地悪を仕掛けたり、勝負を挑んだり、馬鹿にしたり、ガキらしく好き放題していたが、最近よくシーアに負けが続いているので、かなり悔しく思っている。勝手である。
戦う才能があるかと言われたら無い。何故か。空が怖いからである。その恐怖心は、ウィンドグライダーから落ちる、という経験を初めてした日から、歳を重ねるにつれ、大きくなっている。何故か。死ぬのが怖いからだ。
雲の向こうには何もない。そこに落ちてしまえば全てが終わる。終わるのに、何故人は空を飛ぶのだろう?
それでも、シーアに勝負を挑まれれば乗らないわけにはいかないし、彼は今日も空を飛ぶのだ。
「俺はお前なんかに負けねーよ、俺を誰だと思ってるんだ!」
「クッ……俺はお前みたいなおこちゃまに負けたこと、納得してないからな!次こそは絶対に勝つ!」
「べ、べべべべ別に!?あいつのことなんか好きじゃねえよ!は!?馬鹿なこと言ってんじゃねえ!」畳む
〇マシュー
年齢:16歳 性別:男性
身長:156cm
所属:セレスティア騎士学院
ウィンドグライダー:アルヴィ
口調:「僕」「あなた」「君」「呼び捨て」「○○さん」
呪文:スィーヴァ・ナ・ユニ・メリア・ス!
鳥のように歌え!
騎士学校に在籍する、騎士を目指す少年。サーヤのことが好き。
ウィンドグライダーのことがとても好きで、毎日自分の相棒の観察日記をつけている。そのため、授業で教えられない程の範囲の生態にも詳しい。ウィンドグライダーと触れ合いたいから冒険者や騎士になりたいんだと本人は言う。
また、シーア、サーヤ、リアムとは同じ学校出身で、(主にシーアとリアムに)大人しいのに変なやつだと思われると同時、ウィンドグライダーに対する姿勢は一目置かれている。
運動神経はそれなりだが、補助タイプ。魔法による遠距離の攻撃を得意とする。
平々凡々な普段の振る舞いからはあまり感じられないが、実はそれなりに良いところのお家の出のようで、定期的に家族となにやらもめているような状況が散見される。彼の家族は彼にゼフィルアート学院に入って欲しかったらしい……。
「おはよう!今日の朝、(ウィンドグライダーの名前)が大きなあくびをしたんだ。ちょっと疲れてるのかなと思ったから、今日は歩いて登校することにしたんだよ。」
「ええっ!? も、もしかして、君も彼女のこと好きなの……!?」
「あ〜……はは、あ〜、見られちゃったか〜。家族がうるさいんだ、ごめんね。僕も絵は描けるし、芸術は嫌いじゃないけど、僕にはもっと好きなものがあるんだって、いつか分かってくれるといいなって思うよ。」
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〇
作品概要
空を駈ける。駈ける。
美しい街並み、スカイラヴィス。
ぼくたちは、この空を守る騎士であり、冒険者だ。
風に乗って、どこまでも行こう。
きっとぼくたちを、素敵な冒険が待ち受けている!
簡易用語説明
○スカイラヴィスとは
スカイラヴィスは、果てしない「雲の大海」の上に浮かぶ空の国である。無数の浮遊島が点在し、それらは常に風の流れに乗って移動している。住民はこの島々で生活し、ウィンドグライダーを利用した空中輸送、交易、冒険が日常となっている。
住民たちは「風がすべて」という価値観を持ち、風を崇拝し、風と共に生きている。空の世界では風の流れを読むことが生活や移動の基盤となり、魔法、技術、文化すべてが風と密接に結びついている。
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○風と空の生態系
スカイラヴィスの環境は、特殊な風の力によって支えられている。島々はただ浮いているのではなく、エアエーテルと呼ばれる魔法的な風の力によって安定している。エアエーテルは空気中に満ちており、ウィンドグライダーの飛行や魔法の発動にも関わっている。
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○ウィンドグライダーとは
ウィンドグライダーとは、スカイラヴィスの空を自由に泳ぐ生き物であり、冒険者や騎士にとって欠かせない相棒である。その姿は魚や鳥に似ており、風を受けて滑るように飛行する。体は半透明で、風のエネルギーを取り込むと虹色に輝くことがある。
スカイラヴィスの人々は、ウィンドグライダーを単なる乗り物ではなく、「風と共に生きる仲間」として扱う。人とウィンドグライダーは強い絆で結ばれており、「風翼盟約」と呼ばれる契約を交わすことで、互いの力を最大限に引き出すことができる。
ウィンドグライダーは風を操る能力を持ち、魔法のような特殊な飛行能力を発揮する。風をまとって加速したり、空中で方向転換したり、流れに乗ることで疲れることなく長距離を移動できる。個体によって異なる能力を持ち、それが冒険者の戦い方や移動手段に大きく影響を与える。
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○ 風翼の誓い
ウィンドグライダーに乗るには、それなりに素質が必要である。いわば、免許のようなものだ。
契約を交わすことで、冒険者は「風翼盟約」を得ることができる。この盟約を結ぶことで、冒険者はウィンドグライダーに乗ることと、ウィンドグライダーを使役すること、ふたつの許可が王宮から得られる。
風翼の誓いは生半可な気持ちでは結べず、ウィンドグライダーと深い信頼関係を築く必要がある。そのため、ウィンドグライダーとの生活を通じて、お互いを理解することが重要となる。
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○スカイラヴィスにおける戦闘
スカイラヴィスの民は強靭である。ちょっとやそっとのことでは死なない。そのため、戦闘が娯楽として扱われている。もちろん本気で命を狙ってくる空賊も居るが、基本的には冒険者や騎士たちにとってのゲームのようなものである。
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○風の信仰と宗教
スカイラヴィスに生きる者たちにとって、「風」は生命そのものであり、神聖な存在として崇められている。人々は風の流れを敬い、風とともに生きることを誓う。そのため、スカイラヴィスには独自の宗教や信仰体系が存在し、風を司る神々や儀式が文化の根幹を成している。
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○風に関する祭典と行事
風の流れを祝う祭典は、スカイラヴィスの文化に深く根付いている。
◆風の祭典
・一年に一度、スカイラヴィス全土で開かれる祭典。
・すべてのウィンドグライダーが空へ舞い上がり、美しい風の模様を描く。
・王都では、ゼフィル大聖堂で「風の祝福の儀式」が執り行われる。
◆風の誓約の日
・ウィンドグライダーと契約を結ぶ日。
・騎士学院の生徒が正式に「風翼の誓い」を交わす。
◆風の誕生祭
・赤ん坊が生まれた際に行われる儀式。
・神官が「風の名」を授け、その子の運命を占う。
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○王都セレスティアについて
スカイラヴィスの中心に位置する巨大な浮遊都市であり、政治・文化・学問の中心地である。王宮、騎士学院、各種行政機関が集まるスカイラヴィスの心臓部であり、多くの人々が行き交う賑やかな空中都市である。王都自体が大きな浮遊島であり、風の力によって安定して浮かび続けている。
★王都の概要
位置:スカイラヴィスのほぼ中央。全ての浮遊島の交点となる地点にある。
・役割:スカイラヴィスの首都として、王族、貴族、騎士、学者、商人などが集う都市。
・特徴:都市全体が「風の盾」に包まれており、安定した環境が維持されている。主要な浮遊島との接続点となっており、多数のウィンドグライダーが行き交う。空中庭園や巨大な風車塔など、美しい景観を誇る。
風の神ゼフィルを祀る大聖堂が存在し、風の祝福を受ける場として機能している。
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○王都の構造と主要施設
王都セレスティアは大きく四つの区域に分かれている。
◆王城区(セレスティア宮殿)
スカイラヴィスの王族が住まう王城がある区画。王政の中枢であり、政治の中心でもある。
・セレスティア宮殿
王と王族が住む宮殿。風の流れを意識した設計が施されており、白い塔が連なる美しい建築が特徴。
宮殿の最上部には「風の玉座」があり、歴代の王がスカイラヴィスの風を統べる者として君臨する。
「天空の回廊」 と呼ばれる空中庭園が広がり、王族や貴族たちが憩う場所になっている。
・政務庁
王宮の隣に位置する政治機関。スカイラヴィス全土の行政を司る。
各浮遊島の代表者が集い、風の流れや異常気象、島々の移動計画などを議論する。
・風の神殿(ゼフィル大聖堂)
風の神ゼフィルを祀る大聖堂。王族の戴冠式や「風の誓い」の儀式が行われる神聖な場所。
天井が開放されており、風の流れを肌で感じることができる。
◆騎士学院区(セレスティア騎士学院)
王都の中核を成す区域であり、セレスティア騎士学院がそびえ立つ。
・セレスティア騎士学院
王都最大の教育機関であり、騎士や冒険者を育成する学校。
風翼騎士団の士官候補生や、冒険者を目指す若者たちが訓練を受ける。
・天空訓練場
ウィンドグライダーを使った実戦訓練が行われる巨大な訓練場。
「風の槍試合」 などの決闘大会が開催される。
・剣技道場
近接戦闘の訓練場。騎士見習いたちが日々鍛錬に励む場所。
・風の塔(作戦本部)
風翼騎士団の作戦指揮所。戦略会議や騎士団の運営が行われる。
◆商業・居住区
王都で最も人が集まるエリアであり、商人や一般市民、職人たちが暮らす賑やかな地域。
・セレスティア中央広場
王都の中心部に位置し、多くの商人が集う広場。市場や祭典の会場としても使用される。
「風の祭典」が開催される場所でもあり、年に一度、華やかな空中ショーが行われる。
・浮遊市場
様々な島からの交易品が集まる市場。スカイラヴィス全土の名産品やウィンドグライダーの装備が売買される。
・エアメタル工房
ウィンドグライダーの装備や騎士の武具を作る工房。
・冒険者のギルド支部
風渡りのギルドが運営する冒険者の拠点。ここで依頼を受け、遠征準備を整える。
・居住区
一般市民や商人が暮らすエリア。風の流れを考慮した住居が並ぶ。
◆外縁部・防衛施設
王都の周囲には、外敵や空賊、暴風から都市を守るための防衛施設が配置されている。
・風の壁
王都を取り囲む巨大な魔法障壁。風の力によって形成され、敵の侵入を防ぐ。
・スカイガード砦
風翼騎士団の駐屯地。王都を巡回する騎士たちが常駐している。
・浮遊砲台
王都の外縁部に設置された防衛砲台。敵の襲撃時に「音速砲(ソニックキャノン)」で迎撃する。
・飛空艇港
王都最大の飛空艇港。貴族や商人たちの専用船が停泊している。畳む
○セレスティア騎士学院 〜空を駆ける騎士の育成〜
・概要
スカイラヴィスの空を守る騎士を養成する学院であり、王都セレスティアに本拠を置く。ウィンドグライダーを自在に操る技術、風魔法の応用、剣技や戦術を学び、卒業後は 「風翼騎士団」 や自由騎士として活躍する者が多い。
◆特徴
・実戦重視のカリキュラム:学院の教育は、実戦で役立つ技術を重視し、特にウィンドグライダーとの空中戦や風魔法を駆使した剣技に重点を置く。
・歴史と伝統を重視:古き良き騎士道を重んじ、名門家系の子弟も多く在籍する。
◆主要施設
・天空訓練場:広大な空間で、ウィンドグライダーを駆って戦う実技訓練が行われる。
・剣技道場:剣術、槍術、風を用いた近接戦闘を鍛える場。
・戦略講堂:空中戦の戦術や部隊指揮を学ぶ場所。
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○エアリス魔法学院 〜風の流れを読み解く魔導士の学び舎〜
・概要
スカイラヴィスの 「風と星の魔法」 を学ぶ最高学府。風の流れやエアエーテルの研究、古代魔法の解析を行う。学院はスカイラヴィスで最も高所に位置し、空と星の力を最大限に活かせる環境が整えられている。
◆特徴
・風魔法と星の魔法の研究:風を操る魔法、空間転移、天候制御など、スカイラヴィスの環境に特化した魔法を学ぶ。
・占星術と未来予知:星の流れを読み、未来を占う学問も発達している。
・古代の秘術:封印された古代魔法の解析が行われている。
◆主要施設
・風の試練場:魔法訓練のための施設。嵐や強風のシミュレーションが可能。
・浮遊庭園:魔法植物の栽培や、風精霊との交流を行う場所。
・エアエーテル研究所:風のエネルギーを研究し、魔法理論を深める施設。
・星の天文台:星の道を観測し、占星術や天体魔法の研究を行う。
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○ストームギア技術学院 〜空を支える技術者と発明家の砦〜
・概要
スカイラヴィスにおける 魔導技術と機械工学の中心地。ウィンドグライダーの改良、浮遊船の開発、風力エンジンの研究など、科学と魔法の融合を追求する。技術学院の発明品は冒険者や騎士団の活動を支え、スカイラヴィスの発展に大きく貢献している。
◆特徴
・機械と魔法の融合:魔導機械の開発が盛んであり、「飛行装置」や「風力武器」の発明が進められている。
・実験と実践:「風洞実験場」など、実際の風環境を再現してテストを行う施設が充実。
・冒険者向けの装備開発:ウィンドグライダーの装備の改造や、空中戦に適した武器の開発を手掛ける。
◆主要施設
・ギアラボ:ウィンドグライダーや浮遊船の開発を行う巨大な作業場。
・ストームタワー:嵐のエネルギーを採取し、魔導装置の研究を行う塔。
・エーテル工房:エアエーテルを動力としたエンジンや武器を開発する施設。
・風洞実験場:強風を再現し、機械の耐久性をテストするための施設。
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○ゼフィルアート学院 〜風と光を描く芸術家の聖地〜
・概要
スカイラヴィスの 芸術と文化を育む学院。音楽、絵画、彫刻、舞踊、詩作など、「風と光」をテーマにした芸術表現を学ぶ。ゼフィルアート学院は スカイラヴィスの外縁部に位置し、常に穏やかな風が流れる浮遊島 に存在する。
◆特徴
・風の流れと調和する芸術:風の音や空の色彩を取り入れた表現が重視される。
・魔法と芸術の融合:「光の絵画」「風と共鳴する楽器」など、魔導技術を応用した芸術が発展。
・風の祭典の中心:スカイラヴィス最大の文化祭「風の祭典」の企画・運営を担う。
◆主要施設
・風奏ホール:音楽や舞踊の公演が行われるホール。風を使った楽器の演奏が特徴的。
・光彩ギャラリー:生徒の作品が展示される美術館。
・創風アトリエ:自由に創作活動ができる広大なアトリエ。
・天空舞台:風を利用したダンスや演劇が披露される屋外ステージ。
・詩歌の塔:風と光を感じながら詩作や文章創作を行う静かな塔。
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○呪文について
魔法を使用する際、簡単な呪文が必要になってくる。呪文の内容は人それぞれだが、基本はひとつ、「産まれた時から知っている、1番馴染みのある音の集まり」だ。
これらの呪文は古代魔法に由来しており、実は意味のある言葉なのだが、古代文字が忘れ去られた今、それを解読・理解出来るものはいない。
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登場人物
〇シーア
年齢:16歳 性別:女性
身長:155cm
所属:セレスティア騎士学院
ウィンドグライダー:ヴァルカ
口調:「私」「あんた」「おまえ」「○○さん」
呪文:トゥラン・ヴォラ・ス
嵐よ、力強く舞い上がれ!
騎士学校に在籍する、冒険者を目指す少女。サーヤの双子の姉。
慌ただしくて騒がしい。元孤児で、冒険家の養父に憧れており、いつかお父様のようになるのだといつも豪語している。普段は祖父母に面倒を見られている。貴族のような教養や礼儀作法は苦手で、気が強く直感的な性格のため、思ったことはすぐに口に出してしまう。しかし、誰よりも家族や仲間を大切にし、困っている人を放っておけない。
めげない しょげない あきらめない!
負けん気が強いからか、努力の成果で戦うことにおいて右に出るものは居ないほど。双剣を使うことを得意としており、力よりは速度で押してくる。
実はウィンドグライダーの操作が苦手で、何度も墜落しかけたが、しかし、「転んでも立ち上がる」という彼女らしさがここでも発揮され、少しずつ上達していった。転んで見える隙を「フェイント」として利用し、相手の虚を突く戦術を得意とする。
小回りが効く双剣を活かして、相手の懐に飛び込み、一撃を決める「一瞬の集中力」に秀でている。
「いつでも頼ってくれていいのよ、シーア!」
「お父様はすごいひとなんだからっ、いつか私もお父様のようになるのよ!……なあに、その顔。すぐ転けるのに冒険は無理?なんですって!?絶対なってみせるんだから〜〜〜〜ッ」
「いいこと? 陰口なんてだっさい真似するくらいなら戦いましょう、文句は私に勝ってからにしなさい!」
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〇サーヤ
年齢:16歳 性別:女性
身長:155cm
所属:セレスティア騎士学院
ウィンドグライダー:ティネラ
口調:「ぼく」「きみ」「○○ちゃん」「○○さん」
呪文:トゥラン・リファル・ヴィノ・ス
嵐よ、吹き荒れろ!
自分に自信のない女の子。シーアの双子の妹。
活動的でただではめげない姉の強さに憧れており、振り回されつつも彼女の隣で同じ世界を見られて嬉しいと思っている。
いつも持ち歩いている大きな鞄には姉のために用意した小物やおやつがたくさん入ってる。
昔は体が弱かった影響か、本を読むこととお話を聞くことが好き。今は元気!
ウィンドグライダーの操縦が上手く、タンクとしてとても優秀。耐えるよりはくるくる避けて翻弄してくるテクニカルなタイプ。ウィンドグライダーを巧みに使い、空中を滑るように移動しながら、敵の攻撃をかわしたり、相手をじらして翻弄し、敵の動きを見切って「罠」に誘い込む戦術を得意とする。サポート役として優秀で、姉の危機を察知して即座にカバーする柔軟さを持つ。
「うん、シーアもぼくに頼ってくれていいからね。」
「この絆創膏はシーアが転んだとき用。こっちのあめ玉はシーアが小腹空かせたとき用。こっちは〜」
「ぼくたちのお父さんは冒険家なの。お父さんが話してくれたものを自分の目で見ることがぼくの夢なんだ。もちろん、シーアと一緒にね」
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〇リアム
年齢:16歳 性別:男性
身長:157cm
所属:セレスティア騎士学院
ウィンドグライダー:ノーヴァ
口調:「俺」「お前」「呼び捨て」「○○さん」
呪文:ゼフィ・アーラ・ト・ガルダ・ス!
風よ、空へ向かって飛べ!
騎士学校に在籍する、騎士を目指す少年。シーアのことが好き。
類は友を呼ぶと言うべきか、慌ただしく騒がしい。シーア、サーヤとは中学まで同じ学校だったため、それなりに気心は知れている。が、好きが故に意地悪を仕掛けたり、勝負を挑んだり、馬鹿にしたり、ガキらしく好き放題していたが、最近よくシーアに負けが続いているので、かなり悔しく思っている。勝手である。
戦う才能があるかと言われたら無い。何故か。空が怖いからである。その恐怖心は、ウィンドグライダーから落ちる、という経験を初めてした日から、歳を重ねるにつれ、大きくなっている。何故か。死ぬのが怖いからだ。
雲の向こうには何もない。そこに落ちてしまえば全てが終わる。終わるのに、何故人は空を飛ぶのだろう?
それでも、シーアに勝負を挑まれれば乗らないわけにはいかないし、彼は今日も空を飛ぶのだ。
「俺はお前なんかに負けねーよ、俺を誰だと思ってるんだ!」
「クッ……俺はお前みたいなおこちゃまに負けたこと、納得してないからな!次こそは絶対に勝つ!」
「べ、べべべべ別に!?あいつのことなんか好きじゃねえよ!は!?馬鹿なこと言ってんじゃねえ!」畳む
〇マシュー
年齢:16歳 性別:男性
身長:156cm
所属:セレスティア騎士学院
ウィンドグライダー:アルヴィ
口調:「僕」「あなた」「君」「呼び捨て」「○○さん」
呪文:スィーヴァ・ナ・ユニ・メリア・ス!
鳥のように歌え!
騎士学校に在籍する、騎士を目指す少年。サーヤのことが好き。
ウィンドグライダーのことがとても好きで、毎日自分の相棒の観察日記をつけている。そのため、授業で教えられない程の範囲の生態にも詳しい。ウィンドグライダーと触れ合いたいから冒険者や騎士になりたいんだと本人は言う。
また、シーア、サーヤ、リアムとは同じ学校出身で、(主にシーアとリアムに)大人しいのに変なやつだと思われると同時、ウィンドグライダーに対する姿勢は一目置かれている。
運動神経はそれなりだが、補助タイプ。魔法による遠距離の攻撃を得意とする。
平々凡々な普段の振る舞いからはあまり感じられないが、実はそれなりに良いところのお家の出のようで、定期的に家族となにやらもめているような状況が散見される。彼の家族は彼にゼフィルアート学院に入って欲しかったらしい……。
「おはよう!今日の朝、(ウィンドグライダーの名前)が大きなあくびをしたんだ。ちょっと疲れてるのかなと思ったから、今日は歩いて登校することにしたんだよ。」
「ええっ!? も、もしかして、君も彼女のこと好きなの……!?」
「あ〜……はは、あ〜、見られちゃったか〜。家族がうるさいんだ、ごめんね。僕も絵は描けるし、芸術は嫌いじゃないけど、僕にはもっと好きなものがあるんだって、いつか分かってくれるといいなって思うよ。」
畳む
〇
SS / 喧嘩、栞、暖かなシチュー
シーアが、取っ組み合いの喧嘩をしたらしい。
百歩譲ってもお淑やかとは言い難い、寧ろお転婆という言葉がそれはそれは似合う姉ではあったが、取っ組み合いの喧嘩だなんて今の今まで無かったことだった。
そこらじゅう擦り傷だらけにして、髪の毛をボサボサのまま帰ってきたシーアを、祖母と祖父が慌てて手当をし、風呂に入れ、対応に追われているのを、サーヤはただ、呆然と眺めていた。
・
・
「シーア……?」
「……」
いくら様子がおかしくても、同じ部屋、同じベッド。寝る時も一緒になるし、ご飯も食べねばならない。
祖父母にあれよあれよと部屋の前まで立たされ、あとはよろしくと任された身のサーヤは、おそるおそる、といった様子で、部屋にいるであろうシーアに話しかけた。
返答は無い。代わりにもぞ、と毛布が動いた。どうやらベッドに籠ってしまったらしい。
「シーア、あのね、ご飯出来てるって。今日は暖かいシチューだよ」
「……いらない」
「シーア……」
こうなったシーアはてこでも動かないことを、サーヤは知っていた。祖母も祖父も、それを見越していたのか、サーヤに与えられた指示は「シーアをゆっくりさせてあげて。落ち着いてから呼んで来て頂戴」だった。
絶対に配役が間違っている。そう思ったが、それでも、理由が知りたいのは確かだった。
仕方が無いと、ベッドのふちまで歩き、そこに座る。子供二人が寝るにしては大きなベッドなので、それで狭く感じることもなかった。
「シーア、どうして喧嘩しちゃったの?」
「サーヤには関係ないでしょ」
「シーアが怪我してたら心配だもん。関係あるよ」
少し、沈黙。シーアはそれを話す気が起きないらしかった。
「……誰と喧嘩したの?ぼくの知ってる子?」
沈黙。
「……シーアが話す気ないなら勝手に聞いてきちゃうもん。」
衣擦れの音。サーヤは立ち上がって、わざとらしくそっぽを向いた。
「ぼくだって、……たぶん、喧嘩できない訳じゃないし。シーアが教えてくれないなら、全部ぼくが自分で調べて、シーアの代わりになんとかしちゃうんだから」
が、と手を引っ掴まれてベッドに引きずり込まれた。傍から見ればあまりにも自信が無さそうな言葉選びだったが、サーヤに関してなんやかんや心配性な姉にはそれだけで効果てきめんだったらしい。
涙に濡れた姉の顔を初めて見た。
「サーヤ、貴方珍しく良い度胸してるじゃない」
それを隠すようにシーアはサーヤを抱き締めた。まさか、あの姉が本気で泣いているだなんて思っていなかったものだから、サーヤは困ってしまった。
困った挙句に、そっとシーアの背中に手を回した。ぽん、ぽん、と宥めるように手を叩くのは、今まで父親が、祖母が、祖父が、そうしてくれたから、少しでもシーアが落ち着きますように、って。
「……別に、なんてことないのよ」
「なんてことないって顔じゃないよ……」
「……」
強がりは今更通用しなかった。シーアは少し迷ったように視線を彷徨わせて、そうしてようやく、腹を括ったようだった。
「栞、取られちゃったの」
ぽつり。零れた言葉はあまりにも想定外のものだった。しおり。栞。本に挟むやつ。
「……栞?」
「そう」
「それだけ?」
少し、沈黙。
「……押し花の。交換したやつ、取られちゃって」
それでようやく、合点がいった。
シーアの話によると、犯人は隣のクラス、要するにサーヤと同じクラスの男の子らしい。意地悪な男の子がいるなあ、とはサーヤも思っていたが、シーアにまで意地悪をしていたなんて。度胸があるなあ、とサーヤは思った。
「でも、押し花くらいまた作れるよ」
「……そうかも、しれないけど」
シーアは少し言葉を濁らせた。黙って続きを促す。
「気に入ってたのよ、あの栞。本当よ、それに……」
「……今までだって、沢山サーヤに意地悪してたし、そう思ったら1度懲らしめてやんないと、って思ったの」
ぐ、と抱きしめる力が強くなって、肩が濡れる気配がした。
意地悪って言ったって、今までも、鉛筆取られちゃうとか、シーアといつも一緒にいるのをからかわれたりだとか、そういう小さなことだったのだ。
シーアは、されるがままのぼくをみて、悔しかったのかも、しれない。
サーヤの目にも、少し涙が滲んだ。
「……ごめんね」
「なんでサーヤが謝んのよ」
「……うーん。なんでだろう」
最後にサーヤをぎゅーっと抱きしめたシーアは、ぐりぐりと肩口に目元を押し付けて、サーヤと顔を合わせた。
「良いこと?今回の件はだいたい全ッ部あいつが悪いの!サーヤが何か気にする必要なんか1ミリたりとも無いんだから。……別に今更変わってもらおうなんて思ってないわ。私が守れば良いもの。」
「そう思ってるのは、サーヤも同じでしょう。」
シーアは、そう言ってサーヤの目を見て、微笑んだ。
……この姉は、普段は絶対にどこか抜けているし、失敗の数も知れないし、その度に心配して駆けずり回って来たけれど、サーヤの前では絶対にかっこ良い姉なのだ。
それを、崩そうとなんてしないのだ。
「……うん。そうだね」
「よろしい。」
ふん、と鼻を鳴らしてから、シーアは軽く咳払いをした。
「あー、あ、今日はシチューだったかしら!……話していたらお腹がすいてきたから、今から食べに行っても良いのよ」
「あはは!」
「何よ!」
どうやら、祖父母の配役は完璧だったらしい。下に降りれば祖母がシチューを完璧なタイミングで暖めておいてくれるだろうし、祖父は心配しつつ祖母のお手伝いなんかをしていることだろう。
「冷めてないと良いね、シチュー。」
「な……っ!?」
そんなことを分かっていながら、少し意地悪を言ったりなんかして、それを嘘だと知っていて反応するシーアの手を取って、階段を降りていく。
その後、喧嘩したあの子はシーアが好きなあまりやったことだったと自白し、それをシーアがぶった切ったり、まあ、ほんとにいろいろあったけど、一応の仲直りをして、めでたしめでたしってことで話はまとまった。落ち込んでしまったあの子のことは、あの子を大切に思っている誰かが何とかしてくれるだろう。
今日も2人。穏やかな日差しの元、祖母と祖父に見守られながら。ノートには栞を挟んで、学校へと繰り出していくのだった。畳む
シーアが、取っ組み合いの喧嘩をしたらしい。
百歩譲ってもお淑やかとは言い難い、寧ろお転婆という言葉がそれはそれは似合う姉ではあったが、取っ組み合いの喧嘩だなんて今の今まで無かったことだった。
そこらじゅう擦り傷だらけにして、髪の毛をボサボサのまま帰ってきたシーアを、祖母と祖父が慌てて手当をし、風呂に入れ、対応に追われているのを、サーヤはただ、呆然と眺めていた。
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「シーア……?」
「……」
いくら様子がおかしくても、同じ部屋、同じベッド。寝る時も一緒になるし、ご飯も食べねばならない。
祖父母にあれよあれよと部屋の前まで立たされ、あとはよろしくと任された身のサーヤは、おそるおそる、といった様子で、部屋にいるであろうシーアに話しかけた。
返答は無い。代わりにもぞ、と毛布が動いた。どうやらベッドに籠ってしまったらしい。
「シーア、あのね、ご飯出来てるって。今日は暖かいシチューだよ」
「……いらない」
「シーア……」
こうなったシーアはてこでも動かないことを、サーヤは知っていた。祖母も祖父も、それを見越していたのか、サーヤに与えられた指示は「シーアをゆっくりさせてあげて。落ち着いてから呼んで来て頂戴」だった。
絶対に配役が間違っている。そう思ったが、それでも、理由が知りたいのは確かだった。
仕方が無いと、ベッドのふちまで歩き、そこに座る。子供二人が寝るにしては大きなベッドなので、それで狭く感じることもなかった。
「シーア、どうして喧嘩しちゃったの?」
「サーヤには関係ないでしょ」
「シーアが怪我してたら心配だもん。関係あるよ」
少し、沈黙。シーアはそれを話す気が起きないらしかった。
「……誰と喧嘩したの?ぼくの知ってる子?」
沈黙。
「……シーアが話す気ないなら勝手に聞いてきちゃうもん。」
衣擦れの音。サーヤは立ち上がって、わざとらしくそっぽを向いた。
「ぼくだって、……たぶん、喧嘩できない訳じゃないし。シーアが教えてくれないなら、全部ぼくが自分で調べて、シーアの代わりになんとかしちゃうんだから」
が、と手を引っ掴まれてベッドに引きずり込まれた。傍から見ればあまりにも自信が無さそうな言葉選びだったが、サーヤに関してなんやかんや心配性な姉にはそれだけで効果てきめんだったらしい。
涙に濡れた姉の顔を初めて見た。
「サーヤ、貴方珍しく良い度胸してるじゃない」
それを隠すようにシーアはサーヤを抱き締めた。まさか、あの姉が本気で泣いているだなんて思っていなかったものだから、サーヤは困ってしまった。
困った挙句に、そっとシーアの背中に手を回した。ぽん、ぽん、と宥めるように手を叩くのは、今まで父親が、祖母が、祖父が、そうしてくれたから、少しでもシーアが落ち着きますように、って。
「……別に、なんてことないのよ」
「なんてことないって顔じゃないよ……」
「……」
強がりは今更通用しなかった。シーアは少し迷ったように視線を彷徨わせて、そうしてようやく、腹を括ったようだった。
「栞、取られちゃったの」
ぽつり。零れた言葉はあまりにも想定外のものだった。しおり。栞。本に挟むやつ。
「……栞?」
「そう」
「それだけ?」
少し、沈黙。
「……押し花の。交換したやつ、取られちゃって」
それでようやく、合点がいった。
シーアの話によると、犯人は隣のクラス、要するにサーヤと同じクラスの男の子らしい。意地悪な男の子がいるなあ、とはサーヤも思っていたが、シーアにまで意地悪をしていたなんて。度胸があるなあ、とサーヤは思った。
「でも、押し花くらいまた作れるよ」
「……そうかも、しれないけど」
シーアは少し言葉を濁らせた。黙って続きを促す。
「気に入ってたのよ、あの栞。本当よ、それに……」
「……今までだって、沢山サーヤに意地悪してたし、そう思ったら1度懲らしめてやんないと、って思ったの」
ぐ、と抱きしめる力が強くなって、肩が濡れる気配がした。
意地悪って言ったって、今までも、鉛筆取られちゃうとか、シーアといつも一緒にいるのをからかわれたりだとか、そういう小さなことだったのだ。
シーアは、されるがままのぼくをみて、悔しかったのかも、しれない。
サーヤの目にも、少し涙が滲んだ。
「……ごめんね」
「なんでサーヤが謝んのよ」
「……うーん。なんでだろう」
最後にサーヤをぎゅーっと抱きしめたシーアは、ぐりぐりと肩口に目元を押し付けて、サーヤと顔を合わせた。
「良いこと?今回の件はだいたい全ッ部あいつが悪いの!サーヤが何か気にする必要なんか1ミリたりとも無いんだから。……別に今更変わってもらおうなんて思ってないわ。私が守れば良いもの。」
「そう思ってるのは、サーヤも同じでしょう。」
シーアは、そう言ってサーヤの目を見て、微笑んだ。
……この姉は、普段は絶対にどこか抜けているし、失敗の数も知れないし、その度に心配して駆けずり回って来たけれど、サーヤの前では絶対にかっこ良い姉なのだ。
それを、崩そうとなんてしないのだ。
「……うん。そうだね」
「よろしい。」
ふん、と鼻を鳴らしてから、シーアは軽く咳払いをした。
「あー、あ、今日はシチューだったかしら!……話していたらお腹がすいてきたから、今から食べに行っても良いのよ」
「あはは!」
「何よ!」
どうやら、祖父母の配役は完璧だったらしい。下に降りれば祖母がシチューを完璧なタイミングで暖めておいてくれるだろうし、祖父は心配しつつ祖母のお手伝いなんかをしていることだろう。
「冷めてないと良いね、シチュー。」
「な……っ!?」
そんなことを分かっていながら、少し意地悪を言ったりなんかして、それを嘘だと知っていて反応するシーアの手を取って、階段を降りていく。
その後、喧嘩したあの子はシーアが好きなあまりやったことだったと自白し、それをシーアがぶった切ったり、まあ、ほんとにいろいろあったけど、一応の仲直りをして、めでたしめでたしってことで話はまとまった。落ち込んでしまったあの子のことは、あの子を大切に思っている誰かが何とかしてくれるだろう。
今日も2人。穏やかな日差しの元、祖母と祖父に見守られながら。ノートには栞を挟んで、学校へと繰り出していくのだった。畳む