- ユーザ「灯利うみ」の投稿だけを見る (※時系列順で見る)
- この投稿と同じカテゴリに属する投稿:
- この投稿日時に関連する投稿:
- この投稿に隣接する前後3件ずつをまとめて見る
- この投稿を再編集または削除する
よく来たな!
灯利うみの創作物保管庫です。
二次利用は総じて許可しておりません。
-
最終更新2026/05/13 19:20:34
-
誕生日06/19
-
1フォロー
-
86フォロワー
2497文字
シーアが、取っ組み合いの喧嘩をしたらしい。
百歩譲ってもお淑やかとは言い難い、寧ろお転婆という言葉がそれはそれは似合う姉ではあったが、取っ組み合いの喧嘩だなんて今の今まで無かったことだった。
そこらじゅう擦り傷だらけにして、髪の毛をボサボサのまま帰ってきたシーアを、祖母と祖父が慌てて手当をし、風呂に入れ、対応に追われているのを、サーヤはただ、呆然と眺めていた。
*
「シーア……?」
「……」
いくら様子がおかしくても、同じ部屋、同じベッド。寝る時も一緒になるし、ご飯も食べねばならない。
祖父母にあれよあれよと部屋の前まで立たされ、あとはよろしくと任された身のサーヤは、おそるおそる、といった様子で、部屋にいるであろうシーアに話しかけた。
返答は無い。代わりにもぞ、と毛布が動いた。どうやらベッドに籠ってしまったらしい。
「シーア、あのね、ご飯出来てるって。今日は暖かいシチューだよ」
「……いらない」
「シーア……」
こうなったシーアはてこでも動かないことを、サーヤは知っていた。祖母も祖父も、それを見越していたのか、サーヤに与えられた指示は「シーアをゆっくりさせてあげて。落ち着いてから呼んで来て頂戴」だった。
絶対に配役が間違っている。そう思ったが、それでも、理由が知りたいのは確かだった。
仕方が無いと、ベッドのふちまで歩き、そこに座る。子供二人が寝るにしては大きなベッドなので、それで狭く感じることもなかった。
「シーア、どうして喧嘩しちゃったの?」
「サーヤには関係ないでしょ」
「シーアが怪我してたら心配だもん。関係あるよ」
少し、沈黙。シーアはそれを話す気が起きないらしかった。
「……誰と喧嘩したの?ぼくの知ってる子?」
沈黙。
「……シーアが話す気ないなら勝手に聞いてきちゃうもん。」
衣擦れの音。サーヤは立ち上がって、わざとらしくそっぽを向いた。
「ぼくだって、……たぶん、喧嘩できない訳じゃないし。シーアが教えてくれないなら、全部ぼくが自分で調べて、シーアの代わりになんとかしちゃうんだから」
が、と手を引っ掴まれてベッドに引きずり込まれた。傍から見ればあまりにも自信が無さそうな言葉選びだったが、サーヤに関してなんやかんや心配性な姉にはそれだけで効果てきめんだったらしい。
涙に濡れた姉の顔を初めて見た。
「サーヤ、貴方珍しく良い度胸してるじゃない」
それを隠すようにシーアはサーヤを抱き締めた。まさか、あの姉が本気で泣いているだなんて思っていなかったものだから、サーヤは困ってしまった。
困った挙句に、そっとシーアの背中に手を回した。ぽん、ぽん、と宥めるように手を叩くのは、今まで父親が、祖母が、祖父が、そうしてくれたから、少しでもシーアが落ち着きますように、って。
「……別に、なんてことないのよ」
「なんてことないって顔じゃないよ……」
「……」
強がりは今更通用しなかった。シーアは少し迷ったように視線を彷徨わせて、そうしてようやく、腹を括ったようだった。
「栞、取られちゃったの」
ぽつり。零れた言葉はあまりにも想定外のものだった。しおり。栞。本に挟むやつ。
「……栞?」
「そう」
「それだけ?」
少し、沈黙。
「……押し花の。交換したやつ、取られちゃって」
それでようやく、合点がいった。
シーアの話によると、犯人は隣のクラス、要するにサーヤと同じクラスの男の子らしい。意地悪な男の子がいるなあ、とはサーヤも思っていたが、シーアにまで意地悪をしていたなんて。度胸があるなあ、とサーヤは思った。
「でも、押し花くらいまた作れるよ」
「……そうかも、しれないけど」
シーアは少し言葉を濁らせた。黙って続きを促す。
「気に入ってたのよ、あの栞。本当よ、それに……」
「……今までだって、沢山サーヤに意地悪してたし、そう思ったら1度懲らしめてやんないと、って思ったの」
ぐ、と抱きしめる力が強くなって、肩が濡れる気配がした。
意地悪って言ったって、今までも、鉛筆取られちゃうとか、シーアといつも一緒にいるのをからかわれたりだとか、そういう小さなことだったのだ。
シーアは、されるがままのぼくをみて、悔しかったのかも、しれない。
サーヤの目にも、少し涙が滲んだ。
「……ごめんね」
「なんでサーヤが謝んのよ」
「……うーん。なんでだろう」
最後にサーヤをぎゅーっと抱きしめたシーアは、ぐりぐりと肩口に目元を押し付けて、サーヤと顔を合わせた。
「良いこと?今回の件はだいたい全ッ部あいつが悪いの!サーヤが何か気にする必要なんか1ミリたりとも無いんだから。……別に今更変わってもらおうなんて思ってないわ。私が守れば良いもの。」
「そう思ってるのは、サーヤも同じでしょう。」
シーアは、そう言ってサーヤの目を見て、微笑んだ。
……この姉は、普段は絶対にどこか抜けているし、失敗の数も知れないし、その度に心配して駆けずり回って来たけれど、サーヤの前では絶対にかっこ良い姉なのだ。
それを、崩そうとなんてしないのだ。
「……うん。そうだね」
「よろしい。」
ふん、と鼻を鳴らしてから、シーアは軽く咳払いをした。
「あー、あ、今日はシチューだったかしら!……話していたらお腹がすいてきたから、今から食べに行っても良いのよ」
「あはは!」
「何よ!」
どうやら、祖父母の配役は完璧だったらしい。下に降りれば祖母がシチューを完璧なタイミングで暖めておいてくれるだろうし、祖父は心配しつつ祖母のお手伝いなんかをしていることだろう。
「冷めてないと良いね、シチュー。」
「な……っ!?」
そんなことを分かっていながら、少し意地悪を言ったりなんかして、それを嘘だと知っていて反応するシーアの手を取って、階段を降りていく。
その後、喧嘩したあの子はシーアが好きなあまりやったことだったと自白し、それをシーアがぶった切ったり、まあ、ほんとにいろいろあったけど、一応の仲直りをして、めでたしめでたしってことで話はまとまった。落ち込んでしまったあの子のことは、あの子を大切に思っている誰かが何とかしてくれるだろう。
今日も2人。穏やかな日差しの元、祖母と祖父に見守られながら。ノートには栞を挟んで、学校へと繰り出していくのだった。
畳む