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SS / 本編のちょっと前、朱希と奏海の話
1049文字

 彼女のことが、好きだった。
 幼馴染である夕空翼の姉。夕空奏海。
 トップシンカーになりたいのだと、翼を引っ張って、夢に向かって一直線なその姿勢が好きだった。
 自分より周りを優先してしまうようなちょっと危なっかしいところも、困っている人に手を差し伸べる時の察しの早さも、その青くてまっすぐで綺麗な瞳も。
 彼女の全部が好きだった。

「ごめんね」
 一度だけ、わがままを言ったことがある。
 それで察してしまったのだろうと思う。彼女は酷く困った様子で、それでもはっきりそう言った。
「それ、……貰っても、私からは何も返せないんだ」
 言葉は出なかった。
 黙って頷くことしか出来なかった。自分がどんな顔をしていたかも分からない。ただ、分かっていても苦しかったのだけは、覚えている。



 そうだ。
 本当に、分かっていたんだ。あんたは、心からトップシンカーになりたいんだもんな。

 いいんだ。それで。それでいい。そういうところが好きだから。それでよかった。
 今のままで良い。
 今のままで、良かったんだ。

 好きでいさせてくれるだけで十分だった。
 それを知った時にはもう遅かった。彼女は既に朱希を避けていたし、朱希にもそれは分かっていた。無理に追うことは、しなかった。
 そうこうしているうちに、彼女は心を壊した。原因は不協和の影のパフォーマンスだった。

 驚きはあったが、当時にしては冷静に飲み込んだように思う。彼女なら、下手に落ち込まれたくないからと無理やりにでも励ますのだろうと思ったからだ。
 そうして、今となっては過去のこととなってしまった思い出をなぞっては捨てた。

 終わってしまったんだ、もう。

 彼女のことが、好きだった。
 もう、今となっては、昔の話。






 目を覚ました。
 息を詰めていたのか。大きくため息をついて安堵した様子の彼らは、記憶の中より少し大人になっているように思えた。
 翼がトップシンカーになったらしい。
 それと同時に、桃音も朱希も一緒にトレンドシンカーになって、ライバルとしてやりあっているらしかった。驚きだった。
 少し見ないうちに、世界の未来が大変なことになって、それをなんとかするべく頑張ったのだと話す弟の笑顔が愛らしくて、昔より背筋の伸びた桃音の気遣いが嬉しくて、朱希のその赤い瞳の奥にあったあの熱が、今はダンスに向けられているのを感じて、私は少し安堵してしまった。
 酷い女でごめんね。でも、私にあなたは勿体なかったよ。
 そんなこと言ったらまた怒られちゃうだろうか。
 でも、彼は一人でも幸せを掴める人だと知っているからこそ、私に出来るのはそれを祈ることくらいだった。畳む

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