No.444

#TrendSync 三話
7724文字

「おはよう……」
「おはよう、ももちゃん!」
「はよ〜」
 三者三様の挨拶が響く。あんなに大きな宣言をした後日だったので、桃音は二人と顔を合わせるのがなんだか照れくさかった。
「桃ちゃん、トレンドシンカーを目指すんでしょ!?」
「ゆ、ゆうちゃん! 声が大きいって!」
「いやあ、楽しみだなあ、桃ちゃんのステージ……!」
 翼のキラキラとした視線を一身に受けて、桃音は思わず苦笑した。それでなんだか気が抜けたのも事実だった。
 うんうん、と勝手になにか納得したように頷いて、翼は拳を突き上げた。
「よーし、まず二人が目指すは来月のオーディション! というわけで今日から特訓、頑張らなくちゃね」
「おー!」
 朱希と桃音は視線を合わせた。二人で笑いあってから、翼に合わせて拳を突き上げる。
 三人はこの時、お互いに力強い味方に、そして、ライバルになった。

   *

 ――――靴の音が響く。三人は、市内にある貸しレンタルスタジオまで来ていた。目的はひとつ、朱希と桃音のオーディション合格のため。
 朱希は歌が、桃音はダンスと体力がお互いに課題だった。
 特に、桃音のダンスを彼女の体力に合わせて調節しながら、作曲もしつつ、自身も練習をしなければならない朱希は大変そうだったが、それでも毎日楽しそうだった。
「つ、疲れた……!」
「お疲れ様、ももちゃん! 最初に比べたら随分体力もついてきたんじゃない?」
「ありがとう、ゆうちゃん……そうかな……」
「まだまだ課題アリアリって感じだけどな。ま、形にはなるだろ」
「……朱希だって、歌は全然まだまだなくせに」
「うるせえなあ」
 翼が二人に差し入れとして水分を渡す。二人――――特に桃音は随分ヘロヘロで、ペットボトルの半分くらいを一気に飲み干してしまった。
「……形には、なるかな」
「誰がダンス見てると思ってんだよ。大丈夫だって、なんとかするから」
 な、と朱希はにい、と笑って言った。それでも不安そうなままの桃音を差し置いて、翼は唇を尖らせた。
「ボクももっと朱希に見てもらえば良かったなあ」
「おっ、今からでもやるか? 俺は厳しいぜ」
「ももちゃんには甘々なくせに」
「桃音は体力ないからなあ」
 不服そうな翼の様子に、呆れた朱希がデコピンをお見舞いする。痛い、だの、なんだの。翼が騒ぐのを放置して、朱希は桃音に向き直った。
「そんな顔しなくても、大丈夫だって。信じてくれよ、俺を」
「……朱希のことはもちろん、信じてるよ。信じられないのは自分の方」
 困った顔をした桃音は、そう呟いてから、ぱちん、と自身の頬を叩いた。
「だから、もっともっと頑張らなくちゃ」
「おっ、いいぞ、その意気だ。だけど今日はもう休め。へろへろだろ」
 立ち上がろうとした桃音を朱希が押し戻す。不満そうな桃音に、翼が時計を見てから笑ってこう言った。
「頑張ったから、今日はおやつ買って帰ろう。たまにはご褒美も必要だよ」
 桃音は、ご褒美と練習を天秤にかけて、ご褒美を取ることにしたようだ。頷く桃音の隣で、朱希も賛成、とグッドサインを作った。

   *

 帰り道。他愛ない話をしながら、お菓子を買って、アイスも買って、少しお行儀悪く食べながら帰路に着く。
 ふと、帰宅するために駅に群がる人間の集合体の中から一人、朱希は、目が合った。
「……あ」
 目を逸らす。気付いているのか気付いて居ないのか、相手はまじまじとこちらを眺めているのが分かった。
「朱希?」
 不思議そうに翼が声をかけてくる。朱希は、咄嗟に笑顔を取り繕って応えた。
「なんでもない。ちょっと……昔の知り合いっぽい人が」
「えっ、どれどれ」
「や、やっぱ朱希だよな!?」
 気付けば近くにまで来ていたその人――――紫苑は、食いつくように声を掛けてきた。
「元気してたか? 急に辞めたって聞いたからびっくりしたぞ」
「えっ、……あ〜」
「ダンスは続けているんだよな?」
 紫苑の目は真っ直ぐだった。なんだか後ろめたくて、朱希は思わず誤魔化すように目を逸らした。
 桃音と翼は視線を交わした。まずいんじゃない? そうかも。
「……あー! あ、あの! そろそろ門限だから帰らないと怒られちゃうなー!」
「えっ」
「も、ももちゃんのお家って、厳しいもんねー! 行こう、朱希!」
 二人して朱希の手を引っ掴んで走り出す。呆気に取られた紫苑を置いて、三人は人混みをかき分けてその場から逃げた。

「はあ……、はあ……っ」
「も、ももちゃん、大丈夫? ほら、深呼吸深呼吸!」
 桃音はぜえぜえと上がった息を整えてから、ぼうっとしている朱希に声を掛けた。
「朱希、大丈夫?」
「……ああ」
「大丈夫じゃなさそ〜」
 朱希の頭の中は紫苑のことでいっぱいだった。ハッキリ言うのであれば、動揺していた。まさか、こんなところで会うなんて。
「あの人、って」
「……」
 朱希はなにも言わなかった。何を言うか悩んでいるようだった。しばらくの沈黙の後、口を開く。
「なんでもねえ。ごめん、帰るわ」
「え、ちょ、ちょっと!」
 翼と桃音は顔を見合せた。朱希の後ろ姿を視線で追いながら、二人で首を傾げる。
「大丈夫かな……」
「うーん」
 大丈夫には、見えなかったが。でも、深く言わなかったということは、放っておけと言うことなのだろう。少しの心配をそこに置いて、二人も帰路につくことにした。

   *

 ――――ダンスを習っていた。小さい頃の話だ。
 歌うのは得意ではなかったが、踊るのは好きだった。紫苑とはライバルで、親友だった。彼と一緒に踊るのが好きだった。
 でも。本当にたまたま調子が悪くて、うまく踊れなかった日があった。――――緊張していたのだ。柄にもなく。
 それは、親にダンスを辞めさせられるかもしれない、という恐怖からだった。
 ダンスが好きだ。歌うことは得意じゃないけど、好きだ。いつかトップシンカーにだってなりたい。そんな話を親にした、後日、両親はこんな話をしていた。――――やめさせるべきなのではないか、と。
 彼の、失望したような顔をよく覚えている。
 また失敗して同じ思いをしたくなくて、あの日、もう、全部を諦めることにしたのだ。

 そのはずだったのだ。翼のステージを見るまでは。

 まさかまた会うことになるなんて。いや、彼の家がまだ変わっていないなら、当然のことかもしれないが。
 あの時の感情がぐつぐつと煮え立つように湧き出る。ああ、怖いのだ。
 ダンスが好きだった。それでも恐怖に負けて逃げた幼い頃のダサい自分を、もう誰にも見ないで欲しかった。

 ピコン。スマホから音が鳴る。見れば、紫苑だった。ああ、こんなことならブロックしておけばよかった。スマホを手に取る。
『今日は急に声を掛けてごめんな』
『トレンドシンカーには、もうなれたのか?』
 既読をつけずにその文章を読む。もう随分長いこと、彼からの連絡を無視していた。
 しばらくして、また、通知が飛んでくる。
『怒ってる?』
『朱希のステージが見たいだけなんだ』
 どうして。
『俺はもう、諦めたから』
 どうしてお前が、そんなことを言うんだ。

 見ていられなくて、通知を消してスマホを閉じる。明滅するだけになった画面には、『返信待ってる』と新たに表示されて、嫌になった朱希はそのまま電源を落とした。

   *

 ――――そうして、オーディション最終審査、当日。
 朱希は、あれからずっと調子が悪いようだった。翼と桃音は心配していたが、結局、朱希はなにも話してはくれなかった。
「朱希、調子はどう?」
「まあ、普通」
「普通か〜」
 いつもなら、バッチリ、くらいは言ってくれるのにな。そう思いながらその隣でガチガチの桃音を見る。
「ももちゃん、大丈夫だよ。深呼吸深呼吸!」
「う、うん……! 大丈夫、大丈夫……」
 息を吸って、吐く。いつもみたいに茶々を入れなかった代わりに、朱希は桃音の背中をさすった。
「……朱希、緊張してるの?」
 その手が少し震えているのを感じて、桃音は思わず朱希を見上げた。表情はいつも通りだ。いつも通り、だけれど。
「……そうかもな」
 ぽつり、言葉が漏れる。その言葉がなんだか意外で、桃音は急に朱希が心配になった。
「朱希、」
「お、そろそろ出番じゃねえの」
 桃音の言葉に被せるように朱希が言う。慌てたように時計を確認すれば、確かにその通りだった。準備をしなければ。
「翼。俺も準備してくるから」
「あ、うん。行ってらっしゃい……」
 こくん、と頷いて朱希は去っていった。桃音も慌てたように準備をする。翼は、ステージ脇まで、桃音について行くことにした。

「――――ももちゃん」
 ステージの脇で、翼が声をかける。
「なあに?」
「これね、ももちゃんに」
 桃音が目を見開く。翼の手に握られているのは、スタイルコードだった。
「ボクがデザインしたの。もちろん、ももちゃんにはももちゃんの衣装があると思うから、お守りになったらいいなと思って……」
 桃音はまじまじとそのスタイルコードを眺める。ピンクの長めのスカートに、青いリボン。本当は、自分のためのデザインができなくて、オーディション用にと配られるスタイルコードを使う予定だったのだ。
「……ゆうちゃん。これ、使ってもいい?」
「えっ」
 今度は翼が目を丸くする番だった。桃音は嬉しそうに目を細めて続ける。
「だって、とっても嬉しいし……その方が、安心するから。ね、いいでしょ」
 翼はなんだかむず痒くて、目を逸らして頷いた。やった、と桃音がスタイルコードを抱きしめる。
「じゃあ、行ってくるね、ゆうちゃん」
「うん、頑張って」
 桃音が貸し出されたレゾナンスマイクを持つ。翼が一歩離れたのを合図に、スイッチを押した。

 桃音のステージは大盛況だった。ステラ・ノーツこそ出なかったものの、大きなミスもなく最後まで歌い踊った。得点は――――1003点。ギリギリとはいえ、合格は合格だ。
 桃音が戻ってきたのと同時に、朱希がステージ脇までやってくる。
「桃音、おめでと」
「朱希……」
 桃音も翼も、たくさん言いたいことがあった。でも、時間はなかった。
「俺も頑張んなきゃな」
 言葉とは裏腹にどこか不安そうな朱希は、よし、と気合を入れて、レゾナンスマイクを握った。

「レゾナンスマイク!」
 ボタンを押す。
「スタイルコードセット!」
 読み込ませたカードはオーディションで配布されるものだ。
 息を吸って、吐く。期待と不安を綯い交ぜにしたような、複雑な気持ちだった。いや、どちらかといえば不安の方が大きい。
 それでも。
「――――オーディション、合格……!」
 目指すのは、それだけだ。
「オン・ステージ!」
 視線を上げれば、たくさんの人々の顔が見えて、それがよりプレッシャーだった。

 曲が流れ出す。自分で作って、何度も聞いたから、問題なく歌えるはずだ。踊れるはずだ。
 なのに、どうして。
 どうしようもなく集中出来なかった。歌詞を間違えて、焦って音程がズレる。上手く歌えなかった。身体に染み付いたダンスだけが完璧で、それがなんだか、余計に恥ずかしかった。

 ああ、無理だ。

 どうしようもなくそう思った。気付けば曲は終わっていた。得点は――――869点。ああ、そうだろうな、と、ぼんやりと思った。
 翼と桃音の元に戻るのが嫌で、でもステージの上に居座るのももっと嫌で、そそくさとステージから降りた。

「朱希!」
 翼が声をかけてくる。ああ、惨めになるから心配なんかしないでくれ。
「朱希……あのね、私たち……」
「んだよ」
 不機嫌な声が漏れる。ああ、いけない。当たってしまう。咄嗟に言葉を止めた。代わりに何を言おうか悩んで、絞り出すように、
「……ごめん、しばらくほっといてくれ」
 それだけ言って、彼らの前を去ることにした。引き止める声はあったが、全てを無視する。冷静でいられる自信が、全くもってなかった。
 背を向ける。歩き出す。そんな時、
「いやだ!」
 がしりと手を掴まれる。桃音だった。翼が目を見開いているのが見えた。
「なっ、」
「朱希って全然私たちに相談してくれないんだから!」
 拗ねたような顔で桃音が言う。面食らった朱希がなにか言い返す間もなく桃音は捲し立てた。
「私たち、朱希のこといっぱい心配してる! あの子と会ってから朱希ったらずっと様子がおかしいんだもの」
 息継ぎ。勢いのまま言葉を続けた。
「どうして何も言ってくれないの、私じゃ……頼りないかもしれないけど! それでも、朱希の力になりたいよ」
 朱希はなにか言おうとして、結局、何も言えなかった。後ろから翼が声を掛けてくる。
「ボクたち、ちょっと当たられたくらいで怒らないよ。朱希だって許してくれるでしょ」
 それはそうかもしれないが。翼は続ける。
「それに、ひとりじゃ解決できない悩みを抱え続けるのは、きっと苦しいことだよ」
 朱希はしばらく悩んだ。しばらく悩んでようやく、少しづつ言葉を口にする。
「いや……悪い。頼りないと思ってたとか、そんなつもりじゃなくて……」
 目を伏せる。なんだか二人と目を合わせられなかった。
「自分が恥ずかしいんだ。ただそれだけで」
 翼と桃音は顔を見合せた。少しの間をおいて、翼が口を開く。
「でも、朱希は変わろうとしてるじゃん」
「そ、そうだよ!」
 桃音も拳を握りしめて言った。
「何の話かは……わかんないけどっ、かっこ悪い自分が嫌で変わろうとしてるのなら、朱希が恥ずかしいって思うようなこと、絶対にないんだから!」
 翼も頷く。朱希は思わず顔を上げた。二人と目が合う。二人は、に、と笑って朱希の手を握った。
「ももちゃんの言う通り。大丈夫だよ、朱希はちゃんとかっこいいから」
 そうだそうだと桃音がヤジを入れた。朱希は、一人で悩んでいたことがなんだか馬鹿らしくなって、ようやく苦笑した。
「お前らも、なんだかんだお人好しだよな」
「私たちがお人好しだからじゃなくて、相手が朱希だからこうしてるんだよ」
 そう真正面から言われて、朱希は照れたように、くすぐったそうに視線を逸らして、それから、小さな声で感謝を述べた。
 もうすっかり、いつも通りの朱希だった。

   *
 
 息を吸って、吐く。それから、紫苑からのLINEに既読をつけた。
『連絡出来なくてごめん』
『オーディション、落ちたよ』
 とりあえず送る。既読はすぐついた。少し悩んでから、追加で送った。
『でも俺、諦めたくないから、諦めない』
 誰に、とも言えない宣言だった。でも、紫苑に聞いて欲しかった。
『それでこそ!』
『俺もまた頑張ろうかな』
 紫苑からはそんな言葉が返ってきた。
 それでこそ、か。朱希は、自身の周りの人々って、こちらを信じすぎるところがあるんじゃないかとぼんやり思った。
 なにはともあれ、友人が、自身のやりたいことを諦めないという選択をするのは嬉しいことなので、最高、のスタンプを送った。
 それから。
『800点は越えたから、一応、もう一回だけチャンスがあるんだ』
 TrendSync Performで、特に大切なのは素直な心だと言われている。そのために、800点を越した未来のトレンドシンカー候補は、その月のオーディションにもう一度だけチャンスを貰える。心は揺れるものだから。
『だから、見に来て』
 勢いのまま、送ってしまった。でも、それで良かったと思った。知ってもらおう。今の、朱希のステージを。
『もちろん!』
 その連絡を最後に、スマホの電源を落とす。そろそろ眠らねばならなかった。

 不安で、なによりも怖かった前夜と比べて、どこか安心した心地だった。

   *

 オーディション会場に向かえば、当然のように、翼と桃音もそこに立っていた。
「お前ら……」
 わざわざ言わなかったのに。翼はいたずらっぽく笑った。
「諦め悪い朱希のことだからと思ってね。調子良さそうで良かったよ」
 桃音も嬉しそうに頷いてから、心を決めたように朱希に視線を合わせる。
「朱希、これ、ゆうちゃんと二人でデザインしたの!」
 スタイルコードだった。
「本当は前回渡そうと思ってたんだけど、タイミングがなくて」
 翼が補足する。そうだったのか。
「気持ちはいーっぱい込めといたから! 頑張ってね、朱希!」
 桃音が押し付けるようにそれを渡して、朱希は思わず受け取った。それだけを言うと、二人は時間を見て、慌てて客席に向かって行った。
「……はは、やってやろうじゃん」
 不安はもう無かった。ちゃんと、覚悟を決めることが出来そうだった。
 その勢いを殺さぬようにと、走ってステージに向かうことにした。

   *

 真っ赤なサイリウムが広がる客席がよく見える。朱希はステージに躍り出た。
 曲が流れ出す。覚悟を決める。上手く歌えなかったあの日から、更に曲を聞き込んだ。身体は勝手に動くのだから、課題である歌に集中する必要があった。
 前回のステージを見ていた人はこの客席の中にどれくらいいるんだろう。
 その人達すらあっと驚かせてやりたかった。――――見違えるようだと、思って欲しい。
 ふと、客席に紫苑を見つけた。
 ああ、紫苑、俺、悔しかった!
 お前に失望されたのが悔しかった。ダンスで負けたのが悔しかった。なにより、そんなことで逃げていた自分の存在がいちばん悔しかった!

 でも、変わるって決めたんだ。決めたから、変わるんだ。

 客席に指を指す。指を指して、手拍子を誘導した。光のノーツが見えた。
 伝われ、伝われ、伝われ! これが俺の決意で覚悟なのだと、ただ、それだけが伝わればなんでも良かった。
 夢中で手拍子を取る。リズムを誘導する。
 ――――爆発的な光だった。

 音を操るように、曲を作る時のように。飛び交う音符を操って、美しい旋律を作り出す。
 そうして完成したその旋律を、ギターを掻き鳴らすみたいに鳴らす。鳴らす。
 その音に合わせるみたいにステップを踏んだ。ああ、楽しい!
 そうだ、そうだとも。

 この瞬間を誰よりも楽しまなくちゃ、トップシンカーになんてなれない!

 大きな歓声が鼓膜を揺らした。朱希はそれで我に返った。気付けば曲は終わっていて、自分の身体も、止まっていた。
 得点は――――1360点。1360点?
「合格……!」
 思わずガッツポーズを作ってから、客席の全員に頭を下げた。拍手は鳴り止まず、大きな拍手の中、朱希はそのステージを降りた。

「朱希!」
 手続きを終えれば、翼と桃音が迎えてくれた。
「凄かったよ、朱希! まさかステラ・ノーツまで出しちゃうなんて!」
 桃音が興奮した様子でそう言う。翼も隣でうんうんと頷いた。
「覚悟の伝わる良いステージだったよ、朱希」
「……おう、ありがとう」
 2人は、どこか上の空の朱希を見て不思議そうな顔をした。朱希は、補足するように続ける。
「いや……、現実味がなくて。まだ夢なんじゃねえかなって」
「ああ……」
「わかるなあ……」
 合格直後ってそうだよね、とトレンドシンカーになったばかりの三人は笑い合う。ともあれ、三人とも無事に合格したのだ。
「朱希〜!」
 その声で振り返る。紫苑だった。翼と桃音がちょっと警戒したのを他所に、朱希は平然とそちらに向かって行く。
「どうだった?」
「めっちゃ良かった! 朱希は昔から才能あったからな、当然の結果だと思うぞ」
 興奮冷めやらぬといわんばかりに紫苑は朱希に感想をぶつける。それをすかした態度で受け止めている朱希は、いつも通りだった。
「……解決したのかな」
「かもね?」
 翼と桃音は顔を見合せて首を傾げた。それから二人して、解決したならそれがいいか、と納得する。
 空には星が瞬いている。いつか、この中の誰かが、あの一番星みたいに。そんな想像をしてしまうほど浮かれたその日を、満喫するように伸びをした。
畳む

TrendSync!,文章