SS / 4226文字 続きを読む クラスメイトは馬鹿ばかり。周りの会話をイヤホンで遮断して、教室の隅で本を読みながら和田は小さくため息を着いた。 あいつもこいつもそいつも馬鹿だ。馬鹿だから人の間で生きていける。群れの中で適応できる。 全員のことが嫌いだ。だから休み時間は苦痛だ。でも今日は――図書委員会がある! 図書室は静かで良い。それぞれ本としか話してないから、イヤホンで耳が痛くなることも無く、読書を誰かに邪魔されることも無い。 ただ―― 「(今日、同じ当番は臼井か……)」 火曜日の当番、臼井。和田の後輩である彼のことが、和田は苦手だった。 * 「お疲れ様」 「お疲れ様です」 放課後。図書委員会として仕事をするべく図書室に向かうと、先に臼井が座っていた。普通に挨拶して、そのまま沈黙。臼井はおすすめ本のポップを作るのに専念していて、和田はたまに来る貸出、返却の対応をしつつ読書に勤しんでいた。 ちら、と彼の作っているポップに目を向ける。――山崎先生の「詩を書く」。詩って意外と自由で楽しい! 言葉にしたい想いを詩にしてみませんか? 「……臼井って、そういうのが好きなの」 「えっ、」 臼井と目が合う。和田は、声を掛けるんじゃなかった、と後悔した。えーっと。目線をうろつかせてから、臼井は言った。 「変、ですかね」 「別に、意外だと思っただけ。何よ、そんなに機嫌を伺わなくてもいいでしょ」 「すみません……」 謝られた。それ以上は何も言わずに読書に戻る。詩なんか、まどろっこしいだけじゃない、と言うのは、流石に言わなかった。 「あの、先輩」 珍しく、臼井から声が掛かった。出来上がったポップを持ち上げて、無理だったらいいんですけど、前置かれる。 「今日、山崎先生の新しい本が出るんです。なので、早めに帰ってもいいですか?」 和田はため息をついた。それだけで臼井は慌てたように謝り出すので、違う、とそれを制する。 「そんなの、好きにしなさいよ」 「あ、ありがとうございます……」 イライラとして仕方がなかったのが伝わったのか、それ以降、臼井は話しかけてこなかった。 臼井は言葉を選びすぎる。それどころか、時に飲み込みすぎることがある。そうやって言葉を選ぶから誰にも伝わらないのに。 そういう態度がまどろっこしくてもどかしくて、とても好きにはなれかった。 伝わらなくて悲しくないのかしら。悔しくないのかしら。もしそうじゃないのなら、彼の言葉は何の為にあるの? そんなことをふと考えても、もうよく分からなくて、和田は大人しく読書に没頭することにした。 * チャイムが鳴る。図書委員会の仕事は終わりの時間だ。片付けをして、見回りをして、軽く掃除、戸締りをする。そこまでは一緒にやる、と臼井が言ったので、仕方なく和田は一緒に片付けをすることにした。 そこで、バタバタと駆け込んできた生徒がいた。 「臼井、ここに居た! なあ、お願いなんだけど、ちょっと今日の掃除変わってくんない?」 「え……」 慌てて声を掛けて来たのは臼井のクラスメイトのようだった。ヘラヘラとした態度で、曰く、今日は友人と遊ぶ予定を入れてしまったんだ、と。――それ、この間も言ってたな、と和田は思った。 気に入らない。和田は足音を立てて彼に近付いた。 「臼井は今日、ナントカ先生の新作発表があるから早く帰りたいんですって」 空気が固まるのがわかった。それでも言わなきゃ分からないだろう、と和田は続ける。 「あなた、この間も同じ言い訳をしてなかった? バレたくないならバリエーション増やしなさいな。そもそも仕事は仕事。それはあなたがやるべきでしょ」 「い、いやあ……? お願いしますよ、友達が待ってるんすよ、先輩」 めげない田口に呆れたように和田はため息を着いた。臼井は固まってしまって何も言えないようだった。 「そんなに大切なお友達は、あなたのことを待とうともしてくれないって言うの? 手伝って貰ったらいいじゃない。友達を理由にサボりたいだけでしょ、恥ずかしい」 田口は、分かりやすくむす、とした顔をして、何かを言い返そうとしたが、この場において正しいのは和田だった。分が悪い。そう思ったのか、それ以上は何も言わず大人しく引き下がった。 「あんたもさっさと帰んなさいよ」 またあんなのに捕まらないようにね。そっけなく言った和田に対して、臼井は困ったように言葉を吐いた。 「あんな言い方しなくても……」 「なによ」 「……」 しん、と空気が落ちる。和田はイライラした様子で臼井を見た。 「気に食わないならちゃんと言いなさいよ。そうやって黙ってるから伝わらないんでしょ」 「伝わればいいってもんじゃないでしょ」 「じゃあ何、自分が我慢すればいいって?」 ぐ、と言葉に詰まった。図星のようだ。 「そうじゃないですけど……」 「じゃあ、なによ」 イライラして仕方がない。和田はもう止まれなかった。 「そんなんだからなよなよしいって言われるのよ」 「……和田先輩に何が分かるんですか」 「何も分からないわ。あなたは伝える気がないみたいだから」 言葉が止まらない。臼井はかっとした様子で、珍しく声を荒らげた。 「そんなこと言って、先輩だって、伝えようとしてない。対等に話し合おうって思ってないでしょ。どうせ伝わらないって思ってる、いつもそう! そんなんだから怖がられるんですよ、傷つけるんですよ、なんでわかんないんですか!」 沈黙。言ってしまった、といった様子だった。和田は、自分が思ったより冷静なことに驚いていた。彼はそのままこちらを見ずにカバンを引っ掴んだ。 「――すみません、帰ります。」 そのまま、逃げるように図書室を出て行った。 和田はそれを見送ってから、大人しく家に帰ることにした。 「(対等に話し合おうって思ってない、か)」 その通りだった。それでもいつか対等になりたい、と思っていたのを見透かされていたのがなんだか痛くて、それでも受け止めるしかなくて、苦しかった。 * 「和田ちゃんが急に怒った!」 急じゃない。何回も言った。そう訴えようとして、声が出なかった。 「そんなふうに言わないで、ほら、お菓子を食べましょ」 もっと深刻に受け取って欲しかった。私はそれほど嫌だったんだ、と訴えたくても、声が出ない。 ――ああ、夢だ。これは、悪夢だ。 言葉は選ばない方が良い。だって、そうじゃないと伝わらない。有耶無耶にされる。私のこの感情は、無かったものになる。 それが嫌だったから、言葉を選ぶのをやめた。 「どうせ伝わらないって思ってる!」 臼井の言葉がリフレインする。そりゃそうでしょ、伝わらなかったんだから。声は出てこない。そうやって足掻いているうちに、気付いたら涙が出た。ようやく出した泣き声で目が覚めた。――朝だ。 * 不快な気持ちで目覚めて、そのまま学校に行く。何があっても日常は続いていくのが恨めしかった。 クラスメイトは変わらず馬鹿をやっているし、放課後に図書室に行けば静かに本が読める。全部変わらずだ。 「臼井、あいつ、結局なんにも言わねえんだもん。よく分かんねえよな」 ふ、と声がして足を止める。彼のクラスメイトだ。 「まあでも、それが都合良かったんじゃなかったっけ?」 「それがさあ、なんかあいつも用事あったみたいで。知らん先輩に怒られたよ、もう、俺が悪者!? みたいな! あの先輩スゲーこえーし、スゲー嫌な言い方すんの!」 「え〜、まあ、お前が悪いよ」 「ひでー!」 む、として、このまま姿を現してなにか言ってやろうかと思って、やめる。自分が何に怒っているか分からなかった。 和田は、そのまま踵を返した。一人で考え事がしたくて、静かな場所を探すことにした。 真っ当だった、と思う。それで臼井が利用されることは不当だが、それでも、何も言わないからよく分からない、という評価自体はそこまで怒るようなものではない気がした。 ――気に食わないならちゃんと言いなさいよ。そうやって黙ってるから伝わらないんでしょ。 過去の自分の言葉が頭を反響している。そう思った。思っていた。じゃあ頭を渦巻くこのいらだちはなんだ? 私が、正しいと思う。正しくなければなんだ。間違っていたと言いたいのか。頭の中の自分に強気に出てみても相手は自分、水掛け論だ。 私は、なにかを間違っている? そう思ってしまったが最後、臼井と顔を合わせるのがなんだか気まずくて、そのままその週は彼を避けた。 それでも正しい答えはわからなくて、気付けば図書委員会の日が迫っていた。 ばたり。 「あ」 「は?」 教室に向かうため、階段を上っていると、降りてくる臼井と目が合った。舌打ち。そのまま上がっていこうとすれば、後ろから声がかけられる。 「待って、和田先輩」 「!」 そのまま臼井がなにか言おうとするので、慌てて走って階段を上がった。だって、まだ、答えも出てないのに! ばたばたばたばた。廊下を二人分の足音が反響する。臼井が待てと言っている。教師が廊下を走るな、青春か、と茶々を入れた。 そんな可愛いものじゃない! と悲鳴をあげたい気持ちを抑えて走る。それでも体力はそんなにあるほうじゃなくて、階段から転げ落ちそうになって――臼井が腕を掴んで止めた。 息を整える。二人揃ってぜえぜえはあはあしているので、周囲の生徒は不思議そうにそれを眺めた。 「はあ……先輩、ちゃんと聞いてくださいよ」 「は、はあ……っ、嫌よ、だって、私」 「いいから、俺だって謝りたいんですよ!」 和田はようやく臼井を見上げた。彼はそれで安心したように手を離して、 「ちゃんと言うから。……すみませんでした」 瞬き。 「言葉が過ぎました。でも、間違ってたとは思ってない。俺も先輩も間違ってて、俺も先輩も正しいこと言ってると思う」 だから、とそこで臼井は息を吸った。 「先輩の良いところは見習います。ちゃんと相手に伝えたいと思ってるとことか。なので、今に見てろ、って気持ちです」 和田は、口をぱくぱくとさせた。目から鱗、青天の霹靂。そんな答えで、いいのか。いいのか? 「は、はは……」 思わず笑いが漏れた。なんだ、そんな答えでもいいのか! 「すっ……ごい、ムカついた! けど、そうね、アンタが正しいわ」 和田は、にい、と笑った。 「じゃあ、私もなるべく言葉を選ぶようにするわ。対等になりたいもの」 臼井は安心したように笑った。笑って、からかうように言った。 「ま、いつでも相談には乗るんでね」 「はあ!? 調子に乗るんじゃないわよ」 二人して睨み合って、そして同時にあはは、と笑った。あの日の自分が、少しだけ報われた気がした。 「(――次は間違えない)」 畳む 2026.9.11(Fri) 16:13:48 創作,文章/詩歌
クラスメイトは馬鹿ばかり。周りの会話をイヤホンで遮断して、教室の隅で本を読みながら和田は小さくため息を着いた。
あいつもこいつもそいつも馬鹿だ。馬鹿だから人の間で生きていける。群れの中で適応できる。
全員のことが嫌いだ。だから休み時間は苦痛だ。でも今日は――図書委員会がある!
図書室は静かで良い。それぞれ本としか話してないから、イヤホンで耳が痛くなることも無く、読書を誰かに邪魔されることも無い。
ただ――
「(今日、同じ当番は臼井か……)」
火曜日の当番、臼井。和田の後輩である彼のことが、和田は苦手だった。
*
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
放課後。図書委員会として仕事をするべく図書室に向かうと、先に臼井が座っていた。普通に挨拶して、そのまま沈黙。臼井はおすすめ本のポップを作るのに専念していて、和田はたまに来る貸出、返却の対応をしつつ読書に勤しんでいた。
ちら、と彼の作っているポップに目を向ける。――山崎先生の「詩を書く」。詩って意外と自由で楽しい! 言葉にしたい想いを詩にしてみませんか?
「……臼井って、そういうのが好きなの」
「えっ、」
臼井と目が合う。和田は、声を掛けるんじゃなかった、と後悔した。えーっと。目線をうろつかせてから、臼井は言った。
「変、ですかね」
「別に、意外だと思っただけ。何よ、そんなに機嫌を伺わなくてもいいでしょ」
「すみません……」
謝られた。それ以上は何も言わずに読書に戻る。詩なんか、まどろっこしいだけじゃない、と言うのは、流石に言わなかった。
「あの、先輩」
珍しく、臼井から声が掛かった。出来上がったポップを持ち上げて、無理だったらいいんですけど、前置かれる。
「今日、山崎先生の新しい本が出るんです。なので、早めに帰ってもいいですか?」
和田はため息をついた。それだけで臼井は慌てたように謝り出すので、違う、とそれを制する。
「そんなの、好きにしなさいよ」
「あ、ありがとうございます……」
イライラとして仕方がなかったのが伝わったのか、それ以降、臼井は話しかけてこなかった。
臼井は言葉を選びすぎる。それどころか、時に飲み込みすぎることがある。そうやって言葉を選ぶから誰にも伝わらないのに。
そういう態度がまどろっこしくてもどかしくて、とても好きにはなれかった。
伝わらなくて悲しくないのかしら。悔しくないのかしら。もしそうじゃないのなら、彼の言葉は何の為にあるの?
そんなことをふと考えても、もうよく分からなくて、和田は大人しく読書に没頭することにした。
*
チャイムが鳴る。図書委員会の仕事は終わりの時間だ。片付けをして、見回りをして、軽く掃除、戸締りをする。そこまでは一緒にやる、と臼井が言ったので、仕方なく和田は一緒に片付けをすることにした。
そこで、バタバタと駆け込んできた生徒がいた。
「臼井、ここに居た! なあ、お願いなんだけど、ちょっと今日の掃除変わってくんない?」
「え……」
慌てて声を掛けて来たのは臼井のクラスメイトのようだった。ヘラヘラとした態度で、曰く、今日は友人と遊ぶ予定を入れてしまったんだ、と。――それ、この間も言ってたな、と和田は思った。
気に入らない。和田は足音を立てて彼に近付いた。
「臼井は今日、ナントカ先生の新作発表があるから早く帰りたいんですって」
空気が固まるのがわかった。それでも言わなきゃ分からないだろう、と和田は続ける。
「あなた、この間も同じ言い訳をしてなかった? バレたくないならバリエーション増やしなさいな。そもそも仕事は仕事。それはあなたがやるべきでしょ」
「い、いやあ……? お願いしますよ、友達が待ってるんすよ、先輩」
めげない田口に呆れたように和田はため息を着いた。臼井は固まってしまって何も言えないようだった。
「そんなに大切なお友達は、あなたのことを待とうともしてくれないって言うの? 手伝って貰ったらいいじゃない。友達を理由にサボりたいだけでしょ、恥ずかしい」
田口は、分かりやすくむす、とした顔をして、何かを言い返そうとしたが、この場において正しいのは和田だった。分が悪い。そう思ったのか、それ以上は何も言わず大人しく引き下がった。
「あんたもさっさと帰んなさいよ」
またあんなのに捕まらないようにね。そっけなく言った和田に対して、臼井は困ったように言葉を吐いた。
「あんな言い方しなくても……」
「なによ」
「……」
しん、と空気が落ちる。和田はイライラした様子で臼井を見た。
「気に食わないならちゃんと言いなさいよ。そうやって黙ってるから伝わらないんでしょ」
「伝わればいいってもんじゃないでしょ」
「じゃあ何、自分が我慢すればいいって?」
ぐ、と言葉に詰まった。図星のようだ。
「そうじゃないですけど……」
「じゃあ、なによ」
イライラして仕方がない。和田はもう止まれなかった。
「そんなんだからなよなよしいって言われるのよ」
「……和田先輩に何が分かるんですか」
「何も分からないわ。あなたは伝える気がないみたいだから」
言葉が止まらない。臼井はかっとした様子で、珍しく声を荒らげた。
「そんなこと言って、先輩だって、伝えようとしてない。対等に話し合おうって思ってないでしょ。どうせ伝わらないって思ってる、いつもそう! そんなんだから怖がられるんですよ、傷つけるんですよ、なんでわかんないんですか!」
沈黙。言ってしまった、といった様子だった。和田は、自分が思ったより冷静なことに驚いていた。彼はそのままこちらを見ずにカバンを引っ掴んだ。
「――すみません、帰ります。」
そのまま、逃げるように図書室を出て行った。
和田はそれを見送ってから、大人しく家に帰ることにした。
「(対等に話し合おうって思ってない、か)」
その通りだった。それでもいつか対等になりたい、と思っていたのを見透かされていたのがなんだか痛くて、それでも受け止めるしかなくて、苦しかった。
*
「和田ちゃんが急に怒った!」
急じゃない。何回も言った。そう訴えようとして、声が出なかった。
「そんなふうに言わないで、ほら、お菓子を食べましょ」
もっと深刻に受け取って欲しかった。私はそれほど嫌だったんだ、と訴えたくても、声が出ない。
――ああ、夢だ。これは、悪夢だ。
言葉は選ばない方が良い。だって、そうじゃないと伝わらない。有耶無耶にされる。私のこの感情は、無かったものになる。
それが嫌だったから、言葉を選ぶのをやめた。
「どうせ伝わらないって思ってる!」
臼井の言葉がリフレインする。そりゃそうでしょ、伝わらなかったんだから。声は出てこない。そうやって足掻いているうちに、気付いたら涙が出た。ようやく出した泣き声で目が覚めた。――朝だ。
*
不快な気持ちで目覚めて、そのまま学校に行く。何があっても日常は続いていくのが恨めしかった。
クラスメイトは変わらず馬鹿をやっているし、放課後に図書室に行けば静かに本が読める。全部変わらずだ。
「臼井、あいつ、結局なんにも言わねえんだもん。よく分かんねえよな」
ふ、と声がして足を止める。彼のクラスメイトだ。
「まあでも、それが都合良かったんじゃなかったっけ?」
「それがさあ、なんかあいつも用事あったみたいで。知らん先輩に怒られたよ、もう、俺が悪者!? みたいな! あの先輩スゲーこえーし、スゲー嫌な言い方すんの!」
「え〜、まあ、お前が悪いよ」
「ひでー!」
む、として、このまま姿を現してなにか言ってやろうかと思って、やめる。自分が何に怒っているか分からなかった。
和田は、そのまま踵を返した。一人で考え事がしたくて、静かな場所を探すことにした。
真っ当だった、と思う。それで臼井が利用されることは不当だが、それでも、何も言わないからよく分からない、という評価自体はそこまで怒るようなものではない気がした。
――気に食わないならちゃんと言いなさいよ。そうやって黙ってるから伝わらないんでしょ。
過去の自分の言葉が頭を反響している。そう思った。思っていた。じゃあ頭を渦巻くこのいらだちはなんだ?
私が、正しいと思う。正しくなければなんだ。間違っていたと言いたいのか。頭の中の自分に強気に出てみても相手は自分、水掛け論だ。
私は、なにかを間違っている?
そう思ってしまったが最後、臼井と顔を合わせるのがなんだか気まずくて、そのままその週は彼を避けた。
それでも正しい答えはわからなくて、気付けば図書委員会の日が迫っていた。
ばたり。
「あ」
「は?」
教室に向かうため、階段を上っていると、降りてくる臼井と目が合った。舌打ち。そのまま上がっていこうとすれば、後ろから声がかけられる。
「待って、和田先輩」
「!」
そのまま臼井がなにか言おうとするので、慌てて走って階段を上がった。だって、まだ、答えも出てないのに!
ばたばたばたばた。廊下を二人分の足音が反響する。臼井が待てと言っている。教師が廊下を走るな、青春か、と茶々を入れた。
そんな可愛いものじゃない! と悲鳴をあげたい気持ちを抑えて走る。それでも体力はそんなにあるほうじゃなくて、階段から転げ落ちそうになって――臼井が腕を掴んで止めた。
息を整える。二人揃ってぜえぜえはあはあしているので、周囲の生徒は不思議そうにそれを眺めた。
「はあ……先輩、ちゃんと聞いてくださいよ」
「は、はあ……っ、嫌よ、だって、私」
「いいから、俺だって謝りたいんですよ!」
和田はようやく臼井を見上げた。彼はそれで安心したように手を離して、
「ちゃんと言うから。……すみませんでした」
瞬き。
「言葉が過ぎました。でも、間違ってたとは思ってない。俺も先輩も間違ってて、俺も先輩も正しいこと言ってると思う」
だから、とそこで臼井は息を吸った。
「先輩の良いところは見習います。ちゃんと相手に伝えたいと思ってるとことか。なので、今に見てろ、って気持ちです」
和田は、口をぱくぱくとさせた。目から鱗、青天の霹靂。そんな答えで、いいのか。いいのか?
「は、はは……」
思わず笑いが漏れた。なんだ、そんな答えでもいいのか!
「すっ……ごい、ムカついた! けど、そうね、アンタが正しいわ」
和田は、にい、と笑った。
「じゃあ、私もなるべく言葉を選ぶようにするわ。対等になりたいもの」
臼井は安心したように笑った。笑って、からかうように言った。
「ま、いつでも相談には乗るんでね」
「はあ!? 調子に乗るんじゃないわよ」
二人して睨み合って、そして同時にあはは、と笑った。あの日の自分が、少しだけ報われた気がした。
「(――次は間違えない)」
畳む