No.344, No.343, No.341, No.340, No.339, No.338, No.3377件]

#宇宙の箱、しあわせのかけら
1768文字


 ああ、夢だ。ノアは自覚した。
 こんな昔の記憶を掘り起こすなんて、今日の僕はナイーブなのかもしれない。そんなことを思いながら、夢の中を漂う。目の前には小さな頃のテオがいた。

 ―――僕たちは、親友なんかじゃなかった。

 父さんは、この星に君臨する王様だった。だけれど、自由を愛していた。子供が好き勝手知らない家の子供と遊ぶのを咎めなかった。
 テオとルイは、城の近くに住んでいる、普通の家の子供だった。たまたま、城から抜け出し遊びに出かけた時に出会った歳も知らない友達。
 父さんも母さんも、勉強をサボったことしか咎めなかった。友達と遊ぶのは見過ごしてくれていた。
 しかし、周りの意見は厳しいものだった。
 王子様なのに、普通の家の子と遊んでいる。きっとあっちの子が金目のものを渡したんだ。いやいや、王子様が好き好んで遊んでるだけだ。品格がない。
 それでも友達は友達だった。僕たちがあんまり気にしなかったのが、良くなかった。
 気づけばテオとルイは、なにやら勉強をしているのだとか言って、家から出てこなくなった。
 遊び相手が居なくなったので、自然と勉強に身を入れた。特に、身体のことを学ぶのが好きだった。この頃から、医者という将来の夢は決まっていた。

 ある日のことだ。
 新しい従者がやって来るのだと父から聞いてはいた。ミラと一緒に会いに行けば、テオとルイだった。
 また遊べるのだと喜んだのも束の間、彼らは似合いもしない敬語を使って首を横に振った。
 王子様と王女様のイメージが落ちてしまうから、と。

 しばらく拗ねてみた。ダメだった。ちょっとだけ荒れた。それでもダメだった。嗜められて終わった。どうしても納得のいかない僕を、ミラが困った顔で見ていたのを覚えている。
 でも、それはきっと、友達と一緒に居るための、父の配慮だった。それでいて、彼らの気遣いだったのだ。
 しばらく時が経ち、その関係性にも慣れた頃―――突然、この星にミサイルの雨が降るようになった。

 父は即座にその星を突き止め一人で交渉に向かった。母は国民たちを大きな船に乗せ他の星へ避難するべく奔走した。
 幼い僕たちは何も出来なかった。知識を振り絞って重傷な怪我人たちを診ている間、ミラとルイが船の点検をしていた。
 テオは、何を言っても僕のそばを離れなかった。
 その船が飛び立つ間際、テオとルイだけでも一緒に乗って行けと説得した。僕たちは、父のために残ることを決めていた。
 彼らは頑として乗らなかった。どこまでも頑固なやつらだった。命令だと言っても、もうそんなのなしだろ、とかえってくる。
 そして、どうして、と聞けば、必ずこう返ってくるのだ。
 お前たちは子供だからだ、と。

 歴史に名を残すような大喧嘩だった。テオはそれでも船には乗らなかった。悔しくて、なんでだよ、とぼやけば、心配だからだ! と返ってきた。痺れを切らしたような声だった。
 僕が何も言えなくなった隙に、彼らは船を飛ばした。そもそも時間がなかった。
 ミラが僕の手を握る。それまで、悔しくて泣いていることに気付かなかった。ああ、これでは本当に子供みたいだ。テオが呆れたようにため息をついて、ルイがおろおろと僕の頭を撫でる。それでも止まらない涙が悔しくて憎かった。
 船を見送った後、僕を振り返ったテオは、敬語も王子様呼びも全てを外して、あんま情けない顔すんなよ、と言った。これで友達に戻れるのだから、とも。

 ああ、遠くで、誰かが呼ぶ声がする。―――テオだ。
 その瞬間、スコン、と頭に衝撃が走った。
「ノア、こら、この寝坊助!」
「いてっ」
 目を覚ます。不機嫌そうなテオが、丸めた設計図を手にこちらを見ている。これで殴られたのだろう。
「寝坊助って……、まだそんなに寝てないじゃんか」
 テオは不機嫌そうな眉間のシワをさらに寄せた。
「あんまりにも魘されてるもんだから、嫌な夢でも見てんのかと思って起こしてやったのに?」
「はあ? ……ああ、」
 どうやら、魘されていたらしい。うるさかっただろうかと謝れば、別に、と返ってくる。
「心配してただけだしな」
 彼らのこういうところを見ると、僕たちはまだ、彼らにとっては子供なのかもしれないと思う。
「スープあるけど、いる?」
「……いる」
 それ自体は多少不満ではあったが、それが一番子供っぽいことをもう知っていた。心配は素直に嬉しかったので、仕方なく、仕方なく受け取ってやることにした。
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▼本編
>250

文章,創作

SS / 本編のちょっと前、朱希と奏海の話
1049文字

 彼女のことが、好きだった。
 幼馴染である夕空翼の姉。夕空奏海。
 トップシンカーになりたいのだと、翼を引っ張って、夢に向かって一直線なその姿勢が好きだった。
 自分より周りを優先してしまうようなちょっと危なっかしいところも、困っている人に手を差し伸べる時の察しの早さも、その青くてまっすぐで綺麗な瞳も。
 彼女の全部が好きだった。

「ごめんね」
 一度だけ、わがままを言ったことがある。
 それで察してしまったのだろうと思う。彼女は酷く困った様子で、それでもはっきりそう言った。
「それ、……貰っても、私からは何も返せないんだ」
 言葉は出なかった。
 黙って頷くことしか出来なかった。自分がどんな顔をしていたかも分からない。ただ、分かっていても苦しかったのだけは、覚えている。



 そうだ。
 本当に、分かっていたんだ。あんたは、心からトップシンカーになりたいんだもんな。

 いいんだ。それで。それでいい。そういうところが好きだから。それでよかった。
 今のままで良い。
 今のままで、良かったんだ。

 好きでいさせてくれるだけで十分だった。
 それを知った時にはもう遅かった。彼女は既に朱希を避けていたし、朱希にもそれは分かっていた。無理に追うことは、しなかった。
 そうこうしているうちに、彼女は心を壊した。原因は不協和の影のパフォーマンスだった。

 驚きはあったが、当時にしては冷静に飲み込んだように思う。彼女なら、下手に落ち込まれたくないからと無理やりにでも励ますのだろうと思ったからだ。
 そうして、今となっては過去のこととなってしまった思い出をなぞっては捨てた。

 終わってしまったんだ、もう。

 彼女のことが、好きだった。
 もう、今となっては、昔の話。






 目を覚ました。
 息を詰めていたのか。大きくため息をついて安堵した様子の彼らは、記憶の中より少し大人になっているように思えた。
 翼がトップシンカーになったらしい。
 それと同時に、桃音も朱希も一緒にトレンドシンカーになって、ライバルとしてやりあっているらしかった。驚きだった。
 少し見ないうちに、世界の未来が大変なことになって、それをなんとかするべく頑張ったのだと話す弟の笑顔が愛らしくて、昔より背筋の伸びた桃音の気遣いが嬉しくて、朱希のその赤い瞳の奥にあったあの熱が、今はダンスに向けられているのを感じて、私は少し安堵してしまった。
 酷い女でごめんね。でも、私にあなたは勿体なかったよ。
 そんなこと言ったらまた怒られちゃうだろうか。
 でも、彼は一人でも幸せを掴める人だと知っているからこそ、私に出来るのはそれを祈ることくらいだった。畳む

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