#宇宙の箱、しあわせのかけら 1768文字 続きを読む ああ、夢だ。ノアは自覚した。 こんな昔の記憶を掘り起こすなんて、今日の僕はナイーブなのかもしれない。そんなことを思いながら、夢の中を漂う。目の前には小さな頃のテオがいた。 ―――僕たちは、親友なんかじゃなかった。 父さんは、この星に君臨する王様だった。だけれど、自由を愛していた。子供が好き勝手知らない家の子供と遊ぶのを咎めなかった。 テオとルイは、城の近くに住んでいる、普通の家の子供だった。たまたま、城から抜け出し遊びに出かけた時に出会った歳も知らない友達。 父さんも母さんも、勉強をサボったことしか咎めなかった。友達と遊ぶのは見過ごしてくれていた。 しかし、周りの意見は厳しいものだった。 王子様なのに、普通の家の子と遊んでいる。きっとあっちの子が金目のものを渡したんだ。いやいや、王子様が好き好んで遊んでるだけだ。品格がない。 それでも友達は友達だった。僕たちがあんまり気にしなかったのが、良くなかった。 気づけばテオとルイは、なにやら勉強をしているのだとか言って、家から出てこなくなった。 遊び相手が居なくなったので、自然と勉強に身を入れた。特に、身体のことを学ぶのが好きだった。この頃から、医者という将来の夢は決まっていた。 ある日のことだ。 新しい従者がやって来るのだと父から聞いてはいた。ミラと一緒に会いに行けば、テオとルイだった。 また遊べるのだと喜んだのも束の間、彼らは似合いもしない敬語を使って首を横に振った。 王子様と王女様のイメージが落ちてしまうから、と。 しばらく拗ねてみた。ダメだった。ちょっとだけ荒れた。それでもダメだった。嗜められて終わった。どうしても納得のいかない僕を、ミラが困った顔で見ていたのを覚えている。 でも、それはきっと、友達と一緒に居るための、父の配慮だった。それでいて、彼らの気遣いだったのだ。 しばらく時が経ち、その関係性にも慣れた頃―――突然、この星にミサイルの雨が降るようになった。 父は即座にその星を突き止め一人で交渉に向かった。母は国民たちを大きな船に乗せ他の星へ避難するべく奔走した。 幼い僕たちは何も出来なかった。知識を振り絞って重傷な怪我人たちを診ている間、ミラとルイが船の点検をしていた。 テオは、何を言っても僕のそばを離れなかった。 その船が飛び立つ間際、テオとルイだけでも一緒に乗って行けと説得した。僕たちは、父のために残ることを決めていた。 彼らは頑として乗らなかった。どこまでも頑固なやつらだった。命令だと言っても、もうそんなのなしだろ、とかえってくる。 そして、どうして、と聞けば、必ずこう返ってくるのだ。 お前たちは子供だからだ、と。 歴史に名を残すような大喧嘩だった。テオはそれでも船には乗らなかった。悔しくて、なんでだよ、とぼやけば、心配だからだ! と返ってきた。痺れを切らしたような声だった。 僕が何も言えなくなった隙に、彼らは船を飛ばした。そもそも時間がなかった。 ミラが僕の手を握る。それまで、悔しくて泣いていることに気付かなかった。ああ、これでは本当に子供みたいだ。テオが呆れたようにため息をついて、ルイがおろおろと僕の頭を撫でる。それでも止まらない涙が悔しくて憎かった。 船を見送った後、僕を振り返ったテオは、敬語も王子様呼びも全てを外して、あんま情けない顔すんなよ、と言った。これで友達に戻れるのだから、とも。 ああ、遠くで、誰かが呼ぶ声がする。―――テオだ。 その瞬間、スコン、と頭に衝撃が走った。 「ノア、こら、この寝坊助!」 「いてっ」 目を覚ます。不機嫌そうなテオが、丸めた設計図を手にこちらを見ている。これで殴られたのだろう。 「寝坊助って……、まだそんなに寝てないじゃんか」 テオは不機嫌そうな眉間のシワをさらに寄せた。 「あんまりにも魘されてるもんだから、嫌な夢でも見てんのかと思って起こしてやったのに?」 「はあ? ……ああ、」 どうやら、魘されていたらしい。うるさかっただろうかと謝れば、別に、と返ってくる。 「心配してただけだしな」 彼らのこういうところを見ると、僕たちはまだ、彼らにとっては子供なのかもしれないと思う。 「スープあるけど、いる?」 「……いる」 それ自体は多少不満ではあったが、それが一番子供っぽいことをもう知っていた。心配は素直に嬉しかったので、仕方なく、仕方なく受け取ってやることにした。 畳む ▼本編 >250 2025.12.15(Mon) 00:52:11 文章,創作
1768文字
ああ、夢だ。ノアは自覚した。
こんな昔の記憶を掘り起こすなんて、今日の僕はナイーブなのかもしれない。そんなことを思いながら、夢の中を漂う。目の前には小さな頃のテオがいた。
―――僕たちは、親友なんかじゃなかった。
父さんは、この星に君臨する王様だった。だけれど、自由を愛していた。子供が好き勝手知らない家の子供と遊ぶのを咎めなかった。
テオとルイは、城の近くに住んでいる、普通の家の子供だった。たまたま、城から抜け出し遊びに出かけた時に出会った歳も知らない友達。
父さんも母さんも、勉強をサボったことしか咎めなかった。友達と遊ぶのは見過ごしてくれていた。
しかし、周りの意見は厳しいものだった。
王子様なのに、普通の家の子と遊んでいる。きっとあっちの子が金目のものを渡したんだ。いやいや、王子様が好き好んで遊んでるだけだ。品格がない。
それでも友達は友達だった。僕たちがあんまり気にしなかったのが、良くなかった。
気づけばテオとルイは、なにやら勉強をしているのだとか言って、家から出てこなくなった。
遊び相手が居なくなったので、自然と勉強に身を入れた。特に、身体のことを学ぶのが好きだった。この頃から、医者という将来の夢は決まっていた。
ある日のことだ。
新しい従者がやって来るのだと父から聞いてはいた。ミラと一緒に会いに行けば、テオとルイだった。
また遊べるのだと喜んだのも束の間、彼らは似合いもしない敬語を使って首を横に振った。
王子様と王女様のイメージが落ちてしまうから、と。
しばらく拗ねてみた。ダメだった。ちょっとだけ荒れた。それでもダメだった。嗜められて終わった。どうしても納得のいかない僕を、ミラが困った顔で見ていたのを覚えている。
でも、それはきっと、友達と一緒に居るための、父の配慮だった。それでいて、彼らの気遣いだったのだ。
しばらく時が経ち、その関係性にも慣れた頃―――突然、この星にミサイルの雨が降るようになった。
父は即座にその星を突き止め一人で交渉に向かった。母は国民たちを大きな船に乗せ他の星へ避難するべく奔走した。
幼い僕たちは何も出来なかった。知識を振り絞って重傷な怪我人たちを診ている間、ミラとルイが船の点検をしていた。
テオは、何を言っても僕のそばを離れなかった。
その船が飛び立つ間際、テオとルイだけでも一緒に乗って行けと説得した。僕たちは、父のために残ることを決めていた。
彼らは頑として乗らなかった。どこまでも頑固なやつらだった。命令だと言っても、もうそんなのなしだろ、とかえってくる。
そして、どうして、と聞けば、必ずこう返ってくるのだ。
お前たちは子供だからだ、と。
歴史に名を残すような大喧嘩だった。テオはそれでも船には乗らなかった。悔しくて、なんでだよ、とぼやけば、心配だからだ! と返ってきた。痺れを切らしたような声だった。
僕が何も言えなくなった隙に、彼らは船を飛ばした。そもそも時間がなかった。
ミラが僕の手を握る。それまで、悔しくて泣いていることに気付かなかった。ああ、これでは本当に子供みたいだ。テオが呆れたようにため息をついて、ルイがおろおろと僕の頭を撫でる。それでも止まらない涙が悔しくて憎かった。
船を見送った後、僕を振り返ったテオは、敬語も王子様呼びも全てを外して、あんま情けない顔すんなよ、と言った。これで友達に戻れるのだから、とも。
ああ、遠くで、誰かが呼ぶ声がする。―――テオだ。
その瞬間、スコン、と頭に衝撃が走った。
「ノア、こら、この寝坊助!」
「いてっ」
目を覚ます。不機嫌そうなテオが、丸めた設計図を手にこちらを見ている。これで殴られたのだろう。
「寝坊助って……、まだそんなに寝てないじゃんか」
テオは不機嫌そうな眉間のシワをさらに寄せた。
「あんまりにも魘されてるもんだから、嫌な夢でも見てんのかと思って起こしてやったのに?」
「はあ? ……ああ、」
どうやら、魘されていたらしい。うるさかっただろうかと謝れば、別に、と返ってくる。
「心配してただけだしな」
彼らのこういうところを見ると、僕たちはまだ、彼らにとっては子供なのかもしれないと思う。
「スープあるけど、いる?」
「……いる」
それ自体は多少不満ではあったが、それが一番子供っぽいことをもう知っていた。心配は素直に嬉しかったので、仕方なく、仕方なく受け取ってやることにした。
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