No.490, No.489, No.488, No.487, No.486, No.485, No.484[7件]
#ふたつの翼、ひとつの空
小話 3353文字
リアムは、シーアのことが好きだった。
理由は自分でもよく分からない。でも、祖父が言ったように、女の子は守られるべきもので、男の子よりも弱くて、という思い込みの全てを覆したのが、シーアだった。
全てがひっくり返されたのが、あまりにも鮮烈だったのだ。もちろんその分悔しくて、腹立たしくて、でも目が離せなかった。
ことある事に理由をつけてシーアをからかった。勝負を挑んだ。時には意地悪もした。今思うと、どうにかシーアの気を引きたくて必死だったのだと思う。
そうしてシーアのことを視線で追っていると、気付けばすぐ側にマシューがいた。
なんだこいつ。
第一印象はそんなもの。しばらく付き合ってみて、賢いがなよなよしいやつ、という印象に変わって、それで、気付いたことがあった。
彼の視線の先には、いつだってシーアとサーヤが居るのだ。
もしかして。
もしかして、こいつもシーアのことが好きなのか?
そんな疑念を抱き始めたある日、マシューと二人で話す機会があった。たまたまお互い、シーアとサーヤを待っているだけの、とても短い時間だった。
「……あのさ」
先に切り出したのはマシューだった。
「リアムくんって、好きな子いる?」
「っはァ!?」
急な切り出しにギョッとしたリアムは思わず咳き込んだ。そんなリアムを気にも止めずにマシューは続ける。
「僕は居るよ。好きな子」
「……なんだよ、急に。意味わかんねえ」
マシューはじ、としばらくこちらを観察してから目を逸らした。
「別に。好きなわけじゃないならいいんだ」
まさか。
まさかこいつ、本当にシーアのことが好きなのか!?
何かを言おうか悩んだまま何も言えずにいると、あっさりとシーアとサーヤが戻ってきて、それ以上をリアムが口にすることは叶わなかった。
それから。
リアムが話し掛けようとするとマシューが先に二人と話していた。マシューは頭が良かった。頭の良さではリアムも負けてはいなかったが、それでもマシューが居る時は本当にやりづらかった。
「クソ、なんだよ、あいつ……」
なんだか酷くモヤモヤして仕方なかった。苛立ちの正体も分からないまま、湖に石を放り込む。
むすくれたまま、横になる。外で横になるのが好きだったが、祖母にはそれでよく怒られていた。なんでも、洗濯が大変だ、とか。
いいだろ、少しくらい。特に、今日くらいは、と頭の中で言い訳をしながら目を瞑る。
瞼で光の阻害された視界が、さらに暗くなった気がして、次に目を開けた時、目の前にシーアがいた。
「は、」
「なにしてるの?」
リアムを覗き込んだシーアの隣にサーヤはいなかった。珍しいこともあるもんだと思いながら体を起こす。
「別に。サーヤは?」
「知らない。私よりマシューが良いみたいなの」
そんなわけないだろ、とリアムは思った。今頃必死になって探していることだろう。でも、言わなかった。
「拗ねてんのか、ガキくせー」
「うるさいわね」
リアムの口からは揶揄う言葉しか出てこない。違う。そうじゃなくて。焦って黙りこくったリアムにシーアが追撃をした。
「別に、ガキでいいわよ。寂しいものは寂しいもの」
こういう時、素直にそう言えるシーアのことが羨ましかった。リアムは少し黙って、目を伏せて答えた。
「ま、分からんでもないよ」
「あら」
秒速で素直に答えたことに後悔した。シーアの瞳が好奇心で輝く。
「リアムもそういうことあるのね!」
「は? 別にいいだろ」
「悪いとは言ってないでしょ。もう、どうしてそうなるのかしら」
拗ねたようにシーアが言う。そういう性格で悪かったな、とリアムは思った。
「寝転ぶの、好きなの?」
気を取り直して、シーアが問う。一瞬、なんのことかわからなくて、言葉に詰まった。シーアが補足する。
「ほら、さっきまで寝転んでたじゃない」
「……あ〜」
好きかと言われたら、好きだが。
「服が汚れるぞ」
「つまらないことを言うのね! 服が汚れたら洗濯を手伝えばいいのよ」
なるほど、確かに。それはナイスアイデアだと思うと同時、何であれやっぱりシーアに負けるのは悔しかった。
「……じゃ、寝転んでみたら」
それだけ言葉を絞り出して、自分も寝転んで目を瞑った。今は黙っていた方が良い気がした。
「……マシューったら、酷いのよ」
寝転がってしばらく、シーアがぼやく。目を開けてシーアの方を見れば、シーアはこちらに背を向けていた。
「サーヤのこと、取って行っちゃうんだもの。私、サーヤはずっと一緒にいてくれるものだと思っていたわ」
リアムはそれを黙って聞くことにした。
「でも、歳は変わらなくても、私はお姉ちゃんだもの。妹が私から離れるからって寂しくて泣かないのよ」
弱音だ、と思った。シーアが弱音を吐くことも、自分に弱音を吐いたことも、全てが意外で、リアムは少しだけ困った。
「……別に、泣けばいいんじゃねえの」
しばらくして、リアムはようやくそう返した。リアムの家は上に兄がいるくらいで、下の子は居ないから、その感覚は分からなかった。
「泣くだけ泣いて、スッキリしてから送り出すでいいんじゃねえの。まあ、あいつがお前のことほっぽり出すとは全く思えねえけどな」
シーアはしばらく黙っていた。泣いているのかもしれない、と思ったが、別に何もしなかった。
「リアムって、こういう時は優しいのね」
「こういう時はってなんだよ!」
「そう思うなら日頃の行いを鑑みるべきだわ」
ぐぬぬ。分かりやすく悔しがってみせると、シーアは楽しげに笑い声を上げた。良かった、と少しだけ安堵していれば、サーヤの声が遠くから聞こえてきた。
「ほら、探されてるぞ」
「ええ〜」
「さっさと行けよ。マシューだって待ってるだろ」
「マシューはサーヤのことばかりだもの」
つまらないわ、とシーアは不貞腐れた。
その言葉を聞いて、ようやく辻褄があった。そうか、マシューはシーアじゃなくてサーヤが好きだったのか。
「じゃあ余計な牽制じゃねえか……」
リアムがぼやいたのを聞き返されるより前に、サーヤがシーアを見つけた。
「シーア!」
「……サーヤ」
シーアの目元は少しだけ赤くなっていて、サーヤはリアムをじと、と睨んだ。
「何話してたの」
「言っとくけど泣かせたのはお前だからな」
俺じゃねえよとリアムはしっしっと手を振った。サーヤはまるで信じていないみたいな顔をしてシーアに向き直る。
「あのね、サーヤ。私、サーヤがマシューに取られちゃうんじゃないかって、寂しくなっちゃったの。でも、本当にそれだけなのよ」
「シーア……」
シーアは、大丈夫よ、と笑ってみせた。それが強がりだというのがリアムにも分かった。サーヤはシーアを抱きしめた。
「シーア、ごめんね。ぼくも、シーアが誰かに取られたら寂しいよ」
シーアとサーヤはとっくに二人の世界に入っていたので、リアムは邪魔にならないようにそそくさと退散することにした。ふと、サーヤを追いかけたきたのであろうマシューと目が合った。
「……お前」
「あはは。シーアさんには勝てなかったよ」
分かりやすく落胆した様子のマシューを連れて、適当な場所に座る。
「お前が好きなのって、サーヤの方?」
「……そうだよ」
「ふうん」
やっぱりそうか。納得したように頷くリアムを見て、マシューも気付いたようだった。
「もしかして、君が好きなのって……」
「……言うなよ」
「そ、そっか! 僕ったら勘違いしちゃった、ごめんね」
安心したようにマシューは困り笑いをした。リアムは、まあ、とか、別に、とか、そんなことをモゴモゴと返した。
それならさ、とマシューは続ける。
「共同戦線を張らない?」
「は?」
「僕はサーヤさんが好き。君はシーアさんが好き。お互いがお互い協力すればウィンウィンだなって」
「お前なあ……」
じと、としたリアムの視線を受け流して、マシューはあっさりと笑った。
「だって、僕はサーヤさんを取られたくないよ」
君は違うの? 問われてから考える。シーアが、他の誰かと? ――そんなことあるか? そもそもシーアが誰かと付き合うという選択肢を取ることが想像できなかった。
「ほら、僕みたいなのがまた現れないとも限らないでしょ」
追撃。リアムはそれで納得した。
「それは嫌だな……」
「おっ、素直」
「どっちかって言うとお前の存在が嫌だったんだよ」
「あはは」
じゃあ、よろしくね、とマシューが手を差し出す。リアムはその手を取ることにした。
「ところで君、名前なんて言うの?」
「マジか、お前」
その日から、マシューの印象は絶対敵に回したくないやつ、だ。
畳む
小話 3353文字
リアムは、シーアのことが好きだった。
理由は自分でもよく分からない。でも、祖父が言ったように、女の子は守られるべきもので、男の子よりも弱くて、という思い込みの全てを覆したのが、シーアだった。
全てがひっくり返されたのが、あまりにも鮮烈だったのだ。もちろんその分悔しくて、腹立たしくて、でも目が離せなかった。
ことある事に理由をつけてシーアをからかった。勝負を挑んだ。時には意地悪もした。今思うと、どうにかシーアの気を引きたくて必死だったのだと思う。
そうしてシーアのことを視線で追っていると、気付けばすぐ側にマシューがいた。
なんだこいつ。
第一印象はそんなもの。しばらく付き合ってみて、賢いがなよなよしいやつ、という印象に変わって、それで、気付いたことがあった。
彼の視線の先には、いつだってシーアとサーヤが居るのだ。
もしかして。
もしかして、こいつもシーアのことが好きなのか?
そんな疑念を抱き始めたある日、マシューと二人で話す機会があった。たまたまお互い、シーアとサーヤを待っているだけの、とても短い時間だった。
「……あのさ」
先に切り出したのはマシューだった。
「リアムくんって、好きな子いる?」
「っはァ!?」
急な切り出しにギョッとしたリアムは思わず咳き込んだ。そんなリアムを気にも止めずにマシューは続ける。
「僕は居るよ。好きな子」
「……なんだよ、急に。意味わかんねえ」
マシューはじ、としばらくこちらを観察してから目を逸らした。
「別に。好きなわけじゃないならいいんだ」
まさか。
まさかこいつ、本当にシーアのことが好きなのか!?
何かを言おうか悩んだまま何も言えずにいると、あっさりとシーアとサーヤが戻ってきて、それ以上をリアムが口にすることは叶わなかった。
それから。
リアムが話し掛けようとするとマシューが先に二人と話していた。マシューは頭が良かった。頭の良さではリアムも負けてはいなかったが、それでもマシューが居る時は本当にやりづらかった。
「クソ、なんだよ、あいつ……」
なんだか酷くモヤモヤして仕方なかった。苛立ちの正体も分からないまま、湖に石を放り込む。
むすくれたまま、横になる。外で横になるのが好きだったが、祖母にはそれでよく怒られていた。なんでも、洗濯が大変だ、とか。
いいだろ、少しくらい。特に、今日くらいは、と頭の中で言い訳をしながら目を瞑る。
瞼で光の阻害された視界が、さらに暗くなった気がして、次に目を開けた時、目の前にシーアがいた。
「は、」
「なにしてるの?」
リアムを覗き込んだシーアの隣にサーヤはいなかった。珍しいこともあるもんだと思いながら体を起こす。
「別に。サーヤは?」
「知らない。私よりマシューが良いみたいなの」
そんなわけないだろ、とリアムは思った。今頃必死になって探していることだろう。でも、言わなかった。
「拗ねてんのか、ガキくせー」
「うるさいわね」
リアムの口からは揶揄う言葉しか出てこない。違う。そうじゃなくて。焦って黙りこくったリアムにシーアが追撃をした。
「別に、ガキでいいわよ。寂しいものは寂しいもの」
こういう時、素直にそう言えるシーアのことが羨ましかった。リアムは少し黙って、目を伏せて答えた。
「ま、分からんでもないよ」
「あら」
秒速で素直に答えたことに後悔した。シーアの瞳が好奇心で輝く。
「リアムもそういうことあるのね!」
「は? 別にいいだろ」
「悪いとは言ってないでしょ。もう、どうしてそうなるのかしら」
拗ねたようにシーアが言う。そういう性格で悪かったな、とリアムは思った。
「寝転ぶの、好きなの?」
気を取り直して、シーアが問う。一瞬、なんのことかわからなくて、言葉に詰まった。シーアが補足する。
「ほら、さっきまで寝転んでたじゃない」
「……あ〜」
好きかと言われたら、好きだが。
「服が汚れるぞ」
「つまらないことを言うのね! 服が汚れたら洗濯を手伝えばいいのよ」
なるほど、確かに。それはナイスアイデアだと思うと同時、何であれやっぱりシーアに負けるのは悔しかった。
「……じゃ、寝転んでみたら」
それだけ言葉を絞り出して、自分も寝転んで目を瞑った。今は黙っていた方が良い気がした。
「……マシューったら、酷いのよ」
寝転がってしばらく、シーアがぼやく。目を開けてシーアの方を見れば、シーアはこちらに背を向けていた。
「サーヤのこと、取って行っちゃうんだもの。私、サーヤはずっと一緒にいてくれるものだと思っていたわ」
リアムはそれを黙って聞くことにした。
「でも、歳は変わらなくても、私はお姉ちゃんだもの。妹が私から離れるからって寂しくて泣かないのよ」
弱音だ、と思った。シーアが弱音を吐くことも、自分に弱音を吐いたことも、全てが意外で、リアムは少しだけ困った。
「……別に、泣けばいいんじゃねえの」
しばらくして、リアムはようやくそう返した。リアムの家は上に兄がいるくらいで、下の子は居ないから、その感覚は分からなかった。
「泣くだけ泣いて、スッキリしてから送り出すでいいんじゃねえの。まあ、あいつがお前のことほっぽり出すとは全く思えねえけどな」
シーアはしばらく黙っていた。泣いているのかもしれない、と思ったが、別に何もしなかった。
「リアムって、こういう時は優しいのね」
「こういう時はってなんだよ!」
「そう思うなら日頃の行いを鑑みるべきだわ」
ぐぬぬ。分かりやすく悔しがってみせると、シーアは楽しげに笑い声を上げた。良かった、と少しだけ安堵していれば、サーヤの声が遠くから聞こえてきた。
「ほら、探されてるぞ」
「ええ〜」
「さっさと行けよ。マシューだって待ってるだろ」
「マシューはサーヤのことばかりだもの」
つまらないわ、とシーアは不貞腐れた。
その言葉を聞いて、ようやく辻褄があった。そうか、マシューはシーアじゃなくてサーヤが好きだったのか。
「じゃあ余計な牽制じゃねえか……」
リアムがぼやいたのを聞き返されるより前に、サーヤがシーアを見つけた。
「シーア!」
「……サーヤ」
シーアの目元は少しだけ赤くなっていて、サーヤはリアムをじと、と睨んだ。
「何話してたの」
「言っとくけど泣かせたのはお前だからな」
俺じゃねえよとリアムはしっしっと手を振った。サーヤはまるで信じていないみたいな顔をしてシーアに向き直る。
「あのね、サーヤ。私、サーヤがマシューに取られちゃうんじゃないかって、寂しくなっちゃったの。でも、本当にそれだけなのよ」
「シーア……」
シーアは、大丈夫よ、と笑ってみせた。それが強がりだというのがリアムにも分かった。サーヤはシーアを抱きしめた。
「シーア、ごめんね。ぼくも、シーアが誰かに取られたら寂しいよ」
シーアとサーヤはとっくに二人の世界に入っていたので、リアムは邪魔にならないようにそそくさと退散することにした。ふと、サーヤを追いかけたきたのであろうマシューと目が合った。
「……お前」
「あはは。シーアさんには勝てなかったよ」
分かりやすく落胆した様子のマシューを連れて、適当な場所に座る。
「お前が好きなのって、サーヤの方?」
「……そうだよ」
「ふうん」
やっぱりそうか。納得したように頷くリアムを見て、マシューも気付いたようだった。
「もしかして、君が好きなのって……」
「……言うなよ」
「そ、そっか! 僕ったら勘違いしちゃった、ごめんね」
安心したようにマシューは困り笑いをした。リアムは、まあ、とか、別に、とか、そんなことをモゴモゴと返した。
それならさ、とマシューは続ける。
「共同戦線を張らない?」
「は?」
「僕はサーヤさんが好き。君はシーアさんが好き。お互いがお互い協力すればウィンウィンだなって」
「お前なあ……」
じと、としたリアムの視線を受け流して、マシューはあっさりと笑った。
「だって、僕はサーヤさんを取られたくないよ」
君は違うの? 問われてから考える。シーアが、他の誰かと? ――そんなことあるか? そもそもシーアが誰かと付き合うという選択肢を取ることが想像できなかった。
「ほら、僕みたいなのがまた現れないとも限らないでしょ」
追撃。リアムはそれで納得した。
「それは嫌だな……」
「おっ、素直」
「どっちかって言うとお前の存在が嫌だったんだよ」
「あはは」
じゃあ、よろしくね、とマシューが手を差し出す。リアムはその手を取ることにした。
「ところで君、名前なんて言うの?」
「マジか、お前」
その日から、マシューの印象は絶対敵に回したくないやつ、だ。
畳む
SS / 4226文字
クラスメイトは馬鹿ばかり。周りの会話をイヤホンで遮断して、教室の隅で本を読みながら和田は小さくため息を着いた。
あいつもこいつもそいつも馬鹿だ。馬鹿だから人の間で生きていける。群れの中で適応できる。
全員のことが嫌いだ。だから休み時間は苦痛だ。でも今日は――図書委員会がある!
図書室は静かで良い。それぞれ本としか話してないから、イヤホンで耳が痛くなることも無く、読書を誰かに邪魔されることも無い。
ただ――
「(今日、同じ当番は臼井か……)」
火曜日の当番、臼井。和田の後輩である彼のことが、和田は苦手だった。
*
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
放課後。図書委員会として仕事をするべく図書室に向かうと、先に臼井が座っていた。普通に挨拶して、そのまま沈黙。臼井はおすすめ本のポップを作るのに専念していて、和田はたまに来る貸出、返却の対応をしつつ読書に勤しんでいた。
ちら、と彼の作っているポップに目を向ける。――山崎先生の「詩を書く」。詩って意外と自由で楽しい! 言葉にしたい想いを詩にしてみませんか?
「……臼井って、そういうのが好きなの」
「えっ、」
臼井と目が合う。和田は、声を掛けるんじゃなかった、と後悔した。えーっと。目線をうろつかせてから、臼井は言った。
「変、ですかね」
「別に、意外だと思っただけ。何よ、そんなに機嫌を伺わなくてもいいでしょ」
「すみません……」
謝られた。それ以上は何も言わずに読書に戻る。詩なんか、まどろっこしいだけじゃない、と言うのは、流石に言わなかった。
「あの、先輩」
珍しく、臼井から声が掛かった。出来上がったポップを持ち上げて、無理だったらいいんですけど、前置かれる。
「今日、山崎先生の新しい本が出るんです。なので、早めに帰ってもいいですか?」
和田はため息をついた。それだけで臼井は慌てたように謝り出すので、違う、とそれを制する。
「そんなの、好きにしなさいよ」
「あ、ありがとうございます……」
イライラとして仕方がなかったのが伝わったのか、それ以降、臼井は話しかけてこなかった。
臼井は言葉を選びすぎる。それどころか、時に飲み込みすぎることがある。そうやって言葉を選ぶから誰にも伝わらないのに。
そういう態度がまどろっこしくてもどかしくて、とても好きにはなれかった。
伝わらなくて悲しくないのかしら。悔しくないのかしら。もしそうじゃないのなら、彼の言葉は何の為にあるの?
そんなことをふと考えても、もうよく分からなくて、和田は大人しく読書に没頭することにした。
*
チャイムが鳴る。図書委員会の仕事は終わりの時間だ。片付けをして、見回りをして、軽く掃除、戸締りをする。そこまでは一緒にやる、と臼井が言ったので、仕方なく和田は一緒に片付けをすることにした。
そこで、バタバタと駆け込んできた生徒がいた。
「臼井、ここに居た! なあ、お願いなんだけど、ちょっと今日の掃除変わってくんない?」
「え……」
慌てて声を掛けて来たのは臼井のクラスメイトのようだった。ヘラヘラとした態度で、曰く、今日は友人と遊ぶ予定を入れてしまったんだ、と。――それ、この間も言ってたな、と和田は思った。
気に入らない。和田は足音を立てて彼に近付いた。
「臼井は今日、ナントカ先生の新作発表があるから早く帰りたいんですって」
空気が固まるのがわかった。それでも言わなきゃ分からないだろう、と和田は続ける。
「あなた、この間も同じ言い訳をしてなかった? バレたくないならバリエーション増やしなさいな。そもそも仕事は仕事。それはあなたがやるべきでしょ」
「い、いやあ……? お願いしますよ、友達が待ってるんすよ、先輩」
めげない田口に呆れたように和田はため息を着いた。臼井は固まってしまって何も言えないようだった。
「そんなに大切なお友達は、あなたのことを待とうともしてくれないって言うの? 手伝って貰ったらいいじゃない。友達を理由にサボりたいだけでしょ、恥ずかしい」
田口は、分かりやすくむす、とした顔をして、何かを言い返そうとしたが、この場において正しいのは和田だった。分が悪い。そう思ったのか、それ以上は何も言わず大人しく引き下がった。
「あんたもさっさと帰んなさいよ」
またあんなのに捕まらないようにね。そっけなく言った和田に対して、臼井は困ったように言葉を吐いた。
「あんな言い方しなくても……」
「なによ」
「……」
しん、と空気が落ちる。和田はイライラした様子で臼井を見た。
「気に食わないならちゃんと言いなさいよ。そうやって黙ってるから伝わらないんでしょ」
「伝わればいいってもんじゃないでしょ」
「じゃあ何、自分が我慢すればいいって?」
ぐ、と言葉に詰まった。図星のようだ。
「そうじゃないですけど……」
「じゃあ、なによ」
イライラして仕方がない。和田はもう止まれなかった。
「そんなんだからなよなよしいって言われるのよ」
「……和田先輩に何が分かるんですか」
「何も分からないわ。あなたは伝える気がないみたいだから」
言葉が止まらない。臼井はかっとした様子で、珍しく声を荒らげた。
「そんなこと言って、先輩だって、伝えようとしてない。対等に話し合おうって思ってないでしょ。どうせ伝わらないって思ってる、いつもそう! そんなんだから怖がられるんですよ、傷つけるんですよ、なんでわかんないんですか!」
沈黙。言ってしまった、といった様子だった。和田は、自分が思ったより冷静なことに驚いていた。彼はそのままこちらを見ずにカバンを引っ掴んだ。
「――すみません、帰ります。」
そのまま、逃げるように図書室を出て行った。
和田はそれを見送ってから、大人しく家に帰ることにした。
「(対等に話し合おうって思ってない、か)」
その通りだった。それでもいつか対等になりたい、と思っていたのを見透かされていたのがなんだか痛くて、それでも受け止めるしかなくて、苦しかった。
*
「和田ちゃんが急に怒った!」
急じゃない。何回も言った。そう訴えようとして、声が出なかった。
「そんなふうに言わないで、ほら、お菓子を食べましょ」
もっと深刻に受け取って欲しかった。私はそれほど嫌だったんだ、と訴えたくても、声が出ない。
――ああ、夢だ。これは、悪夢だ。
言葉は選ばない方が良い。だって、そうじゃないと伝わらない。有耶無耶にされる。私のこの感情は、無かったものになる。
それが嫌だったから、言葉を選ぶのをやめた。
「どうせ伝わらないって思ってる!」
臼井の言葉がリフレインする。そりゃそうでしょ、伝わらなかったんだから。声は出てこない。そうやって足掻いているうちに、気付いたら涙が出た。ようやく出した泣き声で目が覚めた。――朝だ。
*
不快な気持ちで目覚めて、そのまま学校に行く。何があっても日常は続いていくのが恨めしかった。
クラスメイトは変わらず馬鹿をやっているし、放課後に図書室に行けば静かに本が読める。全部変わらずだ。
「臼井、あいつ、結局なんにも言わねえんだもん。よく分かんねえよな」
ふ、と声がして足を止める。彼のクラスメイトだ。
「まあでも、それが都合良かったんじゃなかったっけ?」
「それがさあ、なんかあいつも用事あったみたいで。知らん先輩に怒られたよ、もう、俺が悪者!? みたいな! あの先輩スゲーこえーし、スゲー嫌な言い方すんの!」
「え〜、まあ、お前が悪いよ」
「ひでー!」
む、として、このまま姿を現してなにか言ってやろうかと思って、やめる。自分が何に怒っているか分からなかった。
和田は、そのまま踵を返した。一人で考え事がしたくて、静かな場所を探すことにした。
真っ当だった、と思う。それで臼井が利用されることは不当だが、それでも、何も言わないからよく分からない、という評価自体はそこまで怒るようなものではない気がした。
――気に食わないならちゃんと言いなさいよ。そうやって黙ってるから伝わらないんでしょ。
過去の自分の言葉が頭を反響している。そう思った。思っていた。じゃあ頭を渦巻くこのいらだちはなんだ?
私が、正しいと思う。正しくなければなんだ。間違っていたと言いたいのか。頭の中の自分に強気に出てみても相手は自分、水掛け論だ。
私は、なにかを間違っている?
そう思ってしまったが最後、臼井と顔を合わせるのがなんだか気まずくて、そのままその週は彼を避けた。
それでも正しい答えはわからなくて、気付けば図書委員会の日が迫っていた。
ばたり。
「あ」
「は?」
教室に向かうため、階段を上っていると、降りてくる臼井と目が合った。舌打ち。そのまま上がっていこうとすれば、後ろから声がかけられる。
「待って、和田先輩」
「!」
そのまま臼井がなにか言おうとするので、慌てて走って階段を上がった。だって、まだ、答えも出てないのに!
ばたばたばたばた。廊下を二人分の足音が反響する。臼井が待てと言っている。教師が廊下を走るな、青春か、と茶々を入れた。
そんな可愛いものじゃない! と悲鳴をあげたい気持ちを抑えて走る。それでも体力はそんなにあるほうじゃなくて、階段から転げ落ちそうになって――臼井が腕を掴んで止めた。
息を整える。二人揃ってぜえぜえはあはあしているので、周囲の生徒は不思議そうにそれを眺めた。
「はあ……先輩、ちゃんと聞いてくださいよ」
「は、はあ……っ、嫌よ、だって、私」
「いいから、俺だって謝りたいんですよ!」
和田はようやく臼井を見上げた。彼はそれで安心したように手を離して、
「ちゃんと言うから。……すみませんでした」
瞬き。
「言葉が過ぎました。でも、間違ってたとは思ってない。俺も先輩も間違ってて、俺も先輩も正しいこと言ってると思う」
だから、とそこで臼井は息を吸った。
「先輩の良いところは見習います。ちゃんと相手に伝えたいと思ってるとことか。なので、今に見てろ、って気持ちです」
和田は、口をぱくぱくとさせた。目から鱗、青天の霹靂。そんな答えで、いいのか。いいのか?
「は、はは……」
思わず笑いが漏れた。なんだ、そんな答えでもいいのか!
「すっ……ごい、ムカついた! けど、そうね、アンタが正しいわ」
和田は、にい、と笑った。
「じゃあ、私もなるべく言葉を選ぶようにするわ。対等になりたいもの」
臼井は安心したように笑った。笑って、からかうように言った。
「ま、いつでも相談には乗るんでね」
「はあ!? 調子に乗るんじゃないわよ」
二人して睨み合って、そして同時にあはは、と笑った。あの日の自分が、少しだけ報われた気がした。
「(――次は間違えない)」
畳む
クラスメイトは馬鹿ばかり。周りの会話をイヤホンで遮断して、教室の隅で本を読みながら和田は小さくため息を着いた。
あいつもこいつもそいつも馬鹿だ。馬鹿だから人の間で生きていける。群れの中で適応できる。
全員のことが嫌いだ。だから休み時間は苦痛だ。でも今日は――図書委員会がある!
図書室は静かで良い。それぞれ本としか話してないから、イヤホンで耳が痛くなることも無く、読書を誰かに邪魔されることも無い。
ただ――
「(今日、同じ当番は臼井か……)」
火曜日の当番、臼井。和田の後輩である彼のことが、和田は苦手だった。
*
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
放課後。図書委員会として仕事をするべく図書室に向かうと、先に臼井が座っていた。普通に挨拶して、そのまま沈黙。臼井はおすすめ本のポップを作るのに専念していて、和田はたまに来る貸出、返却の対応をしつつ読書に勤しんでいた。
ちら、と彼の作っているポップに目を向ける。――山崎先生の「詩を書く」。詩って意外と自由で楽しい! 言葉にしたい想いを詩にしてみませんか?
「……臼井って、そういうのが好きなの」
「えっ、」
臼井と目が合う。和田は、声を掛けるんじゃなかった、と後悔した。えーっと。目線をうろつかせてから、臼井は言った。
「変、ですかね」
「別に、意外だと思っただけ。何よ、そんなに機嫌を伺わなくてもいいでしょ」
「すみません……」
謝られた。それ以上は何も言わずに読書に戻る。詩なんか、まどろっこしいだけじゃない、と言うのは、流石に言わなかった。
「あの、先輩」
珍しく、臼井から声が掛かった。出来上がったポップを持ち上げて、無理だったらいいんですけど、前置かれる。
「今日、山崎先生の新しい本が出るんです。なので、早めに帰ってもいいですか?」
和田はため息をついた。それだけで臼井は慌てたように謝り出すので、違う、とそれを制する。
「そんなの、好きにしなさいよ」
「あ、ありがとうございます……」
イライラとして仕方がなかったのが伝わったのか、それ以降、臼井は話しかけてこなかった。
臼井は言葉を選びすぎる。それどころか、時に飲み込みすぎることがある。そうやって言葉を選ぶから誰にも伝わらないのに。
そういう態度がまどろっこしくてもどかしくて、とても好きにはなれかった。
伝わらなくて悲しくないのかしら。悔しくないのかしら。もしそうじゃないのなら、彼の言葉は何の為にあるの?
そんなことをふと考えても、もうよく分からなくて、和田は大人しく読書に没頭することにした。
*
チャイムが鳴る。図書委員会の仕事は終わりの時間だ。片付けをして、見回りをして、軽く掃除、戸締りをする。そこまでは一緒にやる、と臼井が言ったので、仕方なく和田は一緒に片付けをすることにした。
そこで、バタバタと駆け込んできた生徒がいた。
「臼井、ここに居た! なあ、お願いなんだけど、ちょっと今日の掃除変わってくんない?」
「え……」
慌てて声を掛けて来たのは臼井のクラスメイトのようだった。ヘラヘラとした態度で、曰く、今日は友人と遊ぶ予定を入れてしまったんだ、と。――それ、この間も言ってたな、と和田は思った。
気に入らない。和田は足音を立てて彼に近付いた。
「臼井は今日、ナントカ先生の新作発表があるから早く帰りたいんですって」
空気が固まるのがわかった。それでも言わなきゃ分からないだろう、と和田は続ける。
「あなた、この間も同じ言い訳をしてなかった? バレたくないならバリエーション増やしなさいな。そもそも仕事は仕事。それはあなたがやるべきでしょ」
「い、いやあ……? お願いしますよ、友達が待ってるんすよ、先輩」
めげない田口に呆れたように和田はため息を着いた。臼井は固まってしまって何も言えないようだった。
「そんなに大切なお友達は、あなたのことを待とうともしてくれないって言うの? 手伝って貰ったらいいじゃない。友達を理由にサボりたいだけでしょ、恥ずかしい」
田口は、分かりやすくむす、とした顔をして、何かを言い返そうとしたが、この場において正しいのは和田だった。分が悪い。そう思ったのか、それ以上は何も言わず大人しく引き下がった。
「あんたもさっさと帰んなさいよ」
またあんなのに捕まらないようにね。そっけなく言った和田に対して、臼井は困ったように言葉を吐いた。
「あんな言い方しなくても……」
「なによ」
「……」
しん、と空気が落ちる。和田はイライラした様子で臼井を見た。
「気に食わないならちゃんと言いなさいよ。そうやって黙ってるから伝わらないんでしょ」
「伝わればいいってもんじゃないでしょ」
「じゃあ何、自分が我慢すればいいって?」
ぐ、と言葉に詰まった。図星のようだ。
「そうじゃないですけど……」
「じゃあ、なによ」
イライラして仕方がない。和田はもう止まれなかった。
「そんなんだからなよなよしいって言われるのよ」
「……和田先輩に何が分かるんですか」
「何も分からないわ。あなたは伝える気がないみたいだから」
言葉が止まらない。臼井はかっとした様子で、珍しく声を荒らげた。
「そんなこと言って、先輩だって、伝えようとしてない。対等に話し合おうって思ってないでしょ。どうせ伝わらないって思ってる、いつもそう! そんなんだから怖がられるんですよ、傷つけるんですよ、なんでわかんないんですか!」
沈黙。言ってしまった、といった様子だった。和田は、自分が思ったより冷静なことに驚いていた。彼はそのままこちらを見ずにカバンを引っ掴んだ。
「――すみません、帰ります。」
そのまま、逃げるように図書室を出て行った。
和田はそれを見送ってから、大人しく家に帰ることにした。
「(対等に話し合おうって思ってない、か)」
その通りだった。それでもいつか対等になりたい、と思っていたのを見透かされていたのがなんだか痛くて、それでも受け止めるしかなくて、苦しかった。
*
「和田ちゃんが急に怒った!」
急じゃない。何回も言った。そう訴えようとして、声が出なかった。
「そんなふうに言わないで、ほら、お菓子を食べましょ」
もっと深刻に受け取って欲しかった。私はそれほど嫌だったんだ、と訴えたくても、声が出ない。
――ああ、夢だ。これは、悪夢だ。
言葉は選ばない方が良い。だって、そうじゃないと伝わらない。有耶無耶にされる。私のこの感情は、無かったものになる。
それが嫌だったから、言葉を選ぶのをやめた。
「どうせ伝わらないって思ってる!」
臼井の言葉がリフレインする。そりゃそうでしょ、伝わらなかったんだから。声は出てこない。そうやって足掻いているうちに、気付いたら涙が出た。ようやく出した泣き声で目が覚めた。――朝だ。
*
不快な気持ちで目覚めて、そのまま学校に行く。何があっても日常は続いていくのが恨めしかった。
クラスメイトは変わらず馬鹿をやっているし、放課後に図書室に行けば静かに本が読める。全部変わらずだ。
「臼井、あいつ、結局なんにも言わねえんだもん。よく分かんねえよな」
ふ、と声がして足を止める。彼のクラスメイトだ。
「まあでも、それが都合良かったんじゃなかったっけ?」
「それがさあ、なんかあいつも用事あったみたいで。知らん先輩に怒られたよ、もう、俺が悪者!? みたいな! あの先輩スゲーこえーし、スゲー嫌な言い方すんの!」
「え〜、まあ、お前が悪いよ」
「ひでー!」
む、として、このまま姿を現してなにか言ってやろうかと思って、やめる。自分が何に怒っているか分からなかった。
和田は、そのまま踵を返した。一人で考え事がしたくて、静かな場所を探すことにした。
真っ当だった、と思う。それで臼井が利用されることは不当だが、それでも、何も言わないからよく分からない、という評価自体はそこまで怒るようなものではない気がした。
――気に食わないならちゃんと言いなさいよ。そうやって黙ってるから伝わらないんでしょ。
過去の自分の言葉が頭を反響している。そう思った。思っていた。じゃあ頭を渦巻くこのいらだちはなんだ?
私が、正しいと思う。正しくなければなんだ。間違っていたと言いたいのか。頭の中の自分に強気に出てみても相手は自分、水掛け論だ。
私は、なにかを間違っている?
そう思ってしまったが最後、臼井と顔を合わせるのがなんだか気まずくて、そのままその週は彼を避けた。
それでも正しい答えはわからなくて、気付けば図書委員会の日が迫っていた。
ばたり。
「あ」
「は?」
教室に向かうため、階段を上っていると、降りてくる臼井と目が合った。舌打ち。そのまま上がっていこうとすれば、後ろから声がかけられる。
「待って、和田先輩」
「!」
そのまま臼井がなにか言おうとするので、慌てて走って階段を上がった。だって、まだ、答えも出てないのに!
ばたばたばたばた。廊下を二人分の足音が反響する。臼井が待てと言っている。教師が廊下を走るな、青春か、と茶々を入れた。
そんな可愛いものじゃない! と悲鳴をあげたい気持ちを抑えて走る。それでも体力はそんなにあるほうじゃなくて、階段から転げ落ちそうになって――臼井が腕を掴んで止めた。
息を整える。二人揃ってぜえぜえはあはあしているので、周囲の生徒は不思議そうにそれを眺めた。
「はあ……先輩、ちゃんと聞いてくださいよ」
「は、はあ……っ、嫌よ、だって、私」
「いいから、俺だって謝りたいんですよ!」
和田はようやく臼井を見上げた。彼はそれで安心したように手を離して、
「ちゃんと言うから。……すみませんでした」
瞬き。
「言葉が過ぎました。でも、間違ってたとは思ってない。俺も先輩も間違ってて、俺も先輩も正しいこと言ってると思う」
だから、とそこで臼井は息を吸った。
「先輩の良いところは見習います。ちゃんと相手に伝えたいと思ってるとことか。なので、今に見てろ、って気持ちです」
和田は、口をぱくぱくとさせた。目から鱗、青天の霹靂。そんな答えで、いいのか。いいのか?
「は、はは……」
思わず笑いが漏れた。なんだ、そんな答えでもいいのか!
「すっ……ごい、ムカついた! けど、そうね、アンタが正しいわ」
和田は、にい、と笑った。
「じゃあ、私もなるべく言葉を選ぶようにするわ。対等になりたいもの」
臼井は安心したように笑った。笑って、からかうように言った。
「ま、いつでも相談には乗るんでね」
「はあ!? 調子に乗るんじゃないわよ」
二人して睨み合って、そして同時にあはは、と笑った。あの日の自分が、少しだけ報われた気がした。
「(――次は間違えない)」
畳む





