#概念創作 SS 4040文字 続きを読む 彼は、旅人だ。―――旅人、だった。 今まで、たくさんの旅をして、たくさんの人々と出会い、そして、見送ってきた。 この旅に終わりはない。 なぜならこの旅は、旅人の意思ではなく、勝手に流れていくものだからだ。 一つ、また一つ世界が滅んで、神様たちは世界を作る。旅人はそこに流れ着く。 ―――そう、身勝手にも。身勝手に世界を作り、命を与え、旅人たちは、生き続ける。 今回も、変わらぬような、そんな旅だった。 いつか滅ぶと予言されている世界を、観測し、ノートに書き溜める。ノートはとっくに分厚くて、旅人の拡張式の特殊なバッグだっていっぱいになりそうだった。 誰も救えなかった。一つ世界をまたぐ度、何かの記憶が零れ落ちる。 誰も救えなかった。 ―――誰も、救わなかった。 でも、なぜか。穏やかな気持ちだけがそこにあって、静かに揺れていた。 トン。なんだか固い音がして、旅人は地面に降り立った。 流れ着いたのだ。次の旅の目的地に。 しかしなんだか様子がおかしい。見渡してみれば、生き物の姿が全くなかった。 青い空。白い雲は浮かばない。草原。遠くに大きな海が見える。昼間なのに、月もなんだか大きくてきれいだった。 ここはどこだろう。そして、どうして生き物がいないのだろう。 そんなことを考えて少し、気づいた。旅人はこれを知っている。 これは、僕がかつて願ったなにかの、―――夢の、成れの果て。旅の終点、随分と遠かったはずの、世界の中心。 ああ、それにしては、この空間は旅人を知りすぎている。 「まるで、僕自身を象った箱庭みたいだ。」 ぽつりとつぶやいた音はやけに大きく響いて、旅人は居心地悪そうに肩をすくめた。 「へんなの」 改めて周囲を見渡しても、どれだけ声を発しても旅人に帰ってくるような何かはなかった。 それが不思議で、少し不安だった。 ゆっくりと足を踏み出す。見知った感覚で地面に足が付き、あっさり離れる。この世界の重力には慣れるのに困らなくてすみそうだ。 軽く息を吐いて、歩き出す。せっかく海があるのだから、海に行ってみよう。 特段面白いこともなく旅人はその砂浜にたどり着いた。波打ち際には小さな空のガラス瓶が流れ着いている。きれいな海だった。 ガラス瓶を拾う。何気なしに開けてみれば、大きな音で笑い声がガラス瓶から発された。思わず耳を塞いだ。いやな響きだった。 笑い声はそのまま瓶からするりと抜け出して、どこか遠く、手の届かないところまで行ってしまった。 「……なんだよ、もう」 それが聞こえなくなってから悪態を一つついた。思い出す。そう、当時は耳を塞ぐことすらできなかったそれ。 ただ耐えることしかできなかったそれ。 悪態をつくなんてもってのほかだった。ずっと、受け入れることに必死だった。 ああ、聞き流せるようになってしまった。旅人はそう思った。 それは君にとって悪いことだろうか。そうであるにしろ、君は楽だろうに。 いつしかの旅人はこう言っていた。 旅人は、ただ綺麗に生きたいだけで、他の命を踏みつけて笑う自分を自分が1番許せないだけで、結局は他人のためではなく自分のためだ、と。 それも分かっていて、足掻くことにより、自分の願いと向き合い続けることで、綺麗であり続けたい、と。 他人から見て綺麗かどうかは分からないが、たとえそれが偽善でも「良い人」でありたいのだ。 それについて、思考を巡らせているようだった。旅人は何も答えない。 気を取り直して、と旅人は進んでいく。 波打ち際には、いろいろな物が流れ着いているようだった。 子供サイズの靴。どこかで見たことがある。少しおしゃまなかわいい靴。きっとあの子のものだろう、あの子は、自身が無知であると良く知っているようだった。 そのくせ、知らないことを全く知らない、まだまだ成長途中の、ちょっと強気な女の子。 だからこそ、旅人はその純粋さを許容できなかった。それが苦しかった。 覚えている。 ロザリオ。これはあの不思議な―――言ってしまえば少し変な、心の優しい神父のものだろうか。 変な人だった。旅人は海の中でも死ぬことはないと何度言っても、一人でいるよりはと教会に誘うような、穏やかで暖かなひと。それゆえに、たくさん心配をかけたのだろうなと、勝手に思う。思うくらいには、穏やかに日々を送れるようになった。 だから、感謝しているのだ。さみしい夜を放っておかずにいてくれたことに。 不思議な人だった。 覚えている。 ネジ。怪物を名乗る彼のものだろう、世界は滅んだが、彼は、ネジがなくても生きていけるようになっただろうか。 彼は、無くしたネジを、一緒に探してくれる人を。生きる意味になれる誰かを探していたのだろう。旅人は、その性質上、それにはなれなかった。 今、旅人は、悔やんでいるのだろうか。自問する日がある。 自分と他人の存在を、言葉で肯定したいと彼は言っていた。今なら、旅人であればこういうだろう。 存在というものは、みんな等しく欠陥を抱えている。自分が自分であると証明するのには長い時間が必要になる。それでも、生きていていい。生きていて、いいのだ。それを探す旅をしているんだ。ぼくたちは、きっと。 旅を続けるのに理由がないのと同じように、旅を終わらすのにも理由はいらない。それでいいのだ。好きなものを生きる理由にして、好きなものを答えにすればいい。彼が、もっと楽に生きていたらいい。 旅人は、裏切ってしまっただろうと思うのだ。彼の信頼を。申し訳ないとは思う。でも、旅人は神様にはなれなかった。なれない。これからも、ならない。 それでいいと肯定できるようになったのは、きっと、彼のおかげでもある。 覚えている。 大きなカバン。勝手に浮いてしまうのだと言った、彼女の持ち物だ。 彼女は、最期に旅人にこう言った。 「花畑を踏みしめてこぼれた種が、旅人さんの靴に運ばれて、どこか遠い場所で新しい命を芽吹かせることがあるかもしれない」 「そうして咲いた花が、いつか新しい花畑になって、あなたや……別の誰かの心を慰める日が来るかもしれない……って」 「……都合の良いストーリーだって思うかな。でも私は、そんなことを思い描く自分を、どうしてか責める気になれないんだ」 穏やかに笑う彼女を見て、旅人は、「人間の祝福」の意味を知ったのだ。 いいのだ。世界が救えなくても、誰かを、花々を踏みしめて歩くことしかできなくても、美しく生きれなくても、だって、それが人間のかたちだ。 ―――旅人の愛する、人間だ。 そうだ、思い出した。僕は神様だった。落ちこぼれで、出来損ないの。小さな小さな神様。 「ああ、それにしては、この空間は旅人を知りすぎている。」 それはそうだ。だって、この世界も、あの世界も、どれもが僕が救われたくて作り出した白紙の世界だ。美しい人々と、僕の描いた心象風景。 それが良かった。それで良かったんだ。救えないことに痛む心も、誰かを踏みつけて生きている事実も、抱えたまま生きられるようになってしまった。大人になったというのかもしれない。 罪悪感はある。けれど、後悔しようとは思わなかった。楽だからかもしれない。でも、それでいいのだ。 僕がそうであることで、喜ぶ人がいる。安心してくれる人がいて、笑ってくれる人がいる。 僕にはそれでじゅうぶんだった。 僕がこうでなければ、誰かとは話せなかったかもしれないし、誰かがそうでなければ、僕とは関わらなかったかもしれない。 反対に。僕がこうであるから関わらなかった誰かもいるだろう。 それで良い。良かった。だって、そういうものだ。そういうものだ、で、納得できるようになってしまった。 「―――僕も君も、あの日の僕たちではなくなったかもしれないけれど、」 「君にも、僕にも。これからも変わり続ける日々にも、暖かな祝福があればいいなって思うんだ」 「もっとも、そんな高尚なことは出来ないんだけど……」 「……それで、良いんだと、思えるようになった。こうやって祈ることこそが、誰かにとっての救いで、祝福なのかもしれないな、と」 「それが、僕が旅で得た答えだよ。」 誰にでも無く旅人はそう言う。風が吹いている。 覚えている。 ガラスペン。青い炎のランタン。使いかけの絵の具。鏡の破片。 濡れていない傘。忘れ去られた鍵。使われなかった消しゴム。誰かの日記。 後悔も、温もりも、悲しみも、穏やかさも。 寂しさも、喜びも、怒りも、醜ささえすべてを抱きしめて、僕は生きていくことにした。 それが、誰かにとっては悪い決断かもしれない。それで良かった。だって、人は間違う生き物だ。 僕は、旅を経てなお、神様にはなれなかった。 だから、人として。 人として君たちに祝福を贈りたいのだ。 ―――僕と出会ってくれてありがとう。そして、 どうか、君たちの旅に、なにかしら美しいものが在ればいい。 もっともっと素敵で、もっともっと美しい、たくさんの楽しい思い出を詰め込んで、そのまま穏やかに一生を終えてほしい。 そうだ。 また会えたらいい。きっと君のことも、一生分覚えていようとしたとして、いつか忘れてしまうかもしれないけど。 忘れてしまっても、残るものはある。あるんだ。例えば、僕の旅の答えが見つかったみたいに。 旅が、地続きで続いていくみたいに。 僕はそれで満足することにするよ。 君たちの旅に、たくさんの祝福が降り注ぎますように! そして、たくさんの愛が、君たちの周りにあふれていますように。 いつの間にやら草原にたどり着いた旅人の足元からネモフィラの花が広がっていく。 ああ、もうこれ以上の魔法は使えないけど、きっといつか、ここにも生命が生まれるのだ。 穏やかな気持ちだ。なにもかもを、僕一人で救わなくてよかったんだ! 僕は一人じゃなかったんだ。 地面に倒れこむ。旅の疲れか、体力が尽きていた。 でも、きっと旅は終わらない。 この世界は、続いていく。 さようなら、またいつか。 今度は、人間として。もっと君と、怒ったり、泣いたり、笑ったり、悩んだりして、対等に話ができますように! 星がちかちかと瞬いて、まるで返事をしているみたいだった。畳む 補足 >255 2025.8.8(Fri) 23:22:09 文章
彼は、旅人だ。―――旅人、だった。
今まで、たくさんの旅をして、たくさんの人々と出会い、そして、見送ってきた。
この旅に終わりはない。
なぜならこの旅は、旅人の意思ではなく、勝手に流れていくものだからだ。
一つ、また一つ世界が滅んで、神様たちは世界を作る。旅人はそこに流れ着く。
―――そう、身勝手にも。身勝手に世界を作り、命を与え、旅人たちは、生き続ける。
今回も、変わらぬような、そんな旅だった。
いつか滅ぶと予言されている世界を、観測し、ノートに書き溜める。ノートはとっくに分厚くて、旅人の拡張式の特殊なバッグだっていっぱいになりそうだった。
誰も救えなかった。一つ世界をまたぐ度、何かの記憶が零れ落ちる。
誰も救えなかった。
―――誰も、救わなかった。
でも、なぜか。穏やかな気持ちだけがそこにあって、静かに揺れていた。
トン。なんだか固い音がして、旅人は地面に降り立った。
流れ着いたのだ。次の旅の目的地に。
しかしなんだか様子がおかしい。見渡してみれば、生き物の姿が全くなかった。
青い空。白い雲は浮かばない。草原。遠くに大きな海が見える。昼間なのに、月もなんだか大きくてきれいだった。
ここはどこだろう。そして、どうして生き物がいないのだろう。
そんなことを考えて少し、気づいた。旅人はこれを知っている。
これは、僕がかつて願ったなにかの、―――夢の、成れの果て。旅の終点、随分と遠かったはずの、世界の中心。
ああ、それにしては、この空間は旅人を知りすぎている。
「まるで、僕自身を象った箱庭みたいだ。」
ぽつりとつぶやいた音はやけに大きく響いて、旅人は居心地悪そうに肩をすくめた。
「へんなの」
改めて周囲を見渡しても、どれだけ声を発しても旅人に帰ってくるような何かはなかった。
それが不思議で、少し不安だった。
ゆっくりと足を踏み出す。見知った感覚で地面に足が付き、あっさり離れる。この世界の重力には慣れるのに困らなくてすみそうだ。
軽く息を吐いて、歩き出す。せっかく海があるのだから、海に行ってみよう。
特段面白いこともなく旅人はその砂浜にたどり着いた。波打ち際には小さな空のガラス瓶が流れ着いている。きれいな海だった。
ガラス瓶を拾う。何気なしに開けてみれば、大きな音で笑い声がガラス瓶から発された。思わず耳を塞いだ。いやな響きだった。
笑い声はそのまま瓶からするりと抜け出して、どこか遠く、手の届かないところまで行ってしまった。
「……なんだよ、もう」
それが聞こえなくなってから悪態を一つついた。思い出す。そう、当時は耳を塞ぐことすらできなかったそれ。
ただ耐えることしかできなかったそれ。
悪態をつくなんてもってのほかだった。ずっと、受け入れることに必死だった。
ああ、聞き流せるようになってしまった。旅人はそう思った。
それは君にとって悪いことだろうか。そうであるにしろ、君は楽だろうに。
いつしかの旅人はこう言っていた。
旅人は、ただ綺麗に生きたいだけで、他の命を踏みつけて笑う自分を自分が1番許せないだけで、結局は他人のためではなく自分のためだ、と。
それも分かっていて、足掻くことにより、自分の願いと向き合い続けることで、綺麗であり続けたい、と。
他人から見て綺麗かどうかは分からないが、たとえそれが偽善でも「良い人」でありたいのだ。
それについて、思考を巡らせているようだった。旅人は何も答えない。
気を取り直して、と旅人は進んでいく。
波打ち際には、いろいろな物が流れ着いているようだった。
子供サイズの靴。どこかで見たことがある。少しおしゃまなかわいい靴。きっとあの子のものだろう、あの子は、自身が無知であると良く知っているようだった。
そのくせ、知らないことを全く知らない、まだまだ成長途中の、ちょっと強気な女の子。
だからこそ、旅人はその純粋さを許容できなかった。それが苦しかった。
覚えている。
ロザリオ。これはあの不思議な―――言ってしまえば少し変な、心の優しい神父のものだろうか。
変な人だった。旅人は海の中でも死ぬことはないと何度言っても、一人でいるよりはと教会に誘うような、穏やかで暖かなひと。それゆえに、たくさん心配をかけたのだろうなと、勝手に思う。思うくらいには、穏やかに日々を送れるようになった。
だから、感謝しているのだ。さみしい夜を放っておかずにいてくれたことに。
不思議な人だった。
覚えている。
ネジ。怪物を名乗る彼のものだろう、世界は滅んだが、彼は、ネジがなくても生きていけるようになっただろうか。
彼は、無くしたネジを、一緒に探してくれる人を。生きる意味になれる誰かを探していたのだろう。旅人は、その性質上、それにはなれなかった。
今、旅人は、悔やんでいるのだろうか。自問する日がある。
自分と他人の存在を、言葉で肯定したいと彼は言っていた。今なら、旅人であればこういうだろう。
存在というものは、みんな等しく欠陥を抱えている。自分が自分であると証明するのには長い時間が必要になる。それでも、生きていていい。生きていて、いいのだ。それを探す旅をしているんだ。ぼくたちは、きっと。
旅を続けるのに理由がないのと同じように、旅を終わらすのにも理由はいらない。それでいいのだ。好きなものを生きる理由にして、好きなものを答えにすればいい。彼が、もっと楽に生きていたらいい。
旅人は、裏切ってしまっただろうと思うのだ。彼の信頼を。申し訳ないとは思う。でも、旅人は神様にはなれなかった。なれない。これからも、ならない。
それでいいと肯定できるようになったのは、きっと、彼のおかげでもある。
覚えている。
大きなカバン。勝手に浮いてしまうのだと言った、彼女の持ち物だ。
彼女は、最期に旅人にこう言った。
「花畑を踏みしめてこぼれた種が、旅人さんの靴に運ばれて、どこか遠い場所で新しい命を芽吹かせることがあるかもしれない」
「そうして咲いた花が、いつか新しい花畑になって、あなたや……別の誰かの心を慰める日が来るかもしれない……って」
「……都合の良いストーリーだって思うかな。でも私は、そんなことを思い描く自分を、どうしてか責める気になれないんだ」
穏やかに笑う彼女を見て、旅人は、「人間の祝福」の意味を知ったのだ。
いいのだ。世界が救えなくても、誰かを、花々を踏みしめて歩くことしかできなくても、美しく生きれなくても、だって、それが人間のかたちだ。
―――旅人の愛する、人間だ。
そうだ、思い出した。僕は神様だった。落ちこぼれで、出来損ないの。小さな小さな神様。
「ああ、それにしては、この空間は旅人を知りすぎている。」
それはそうだ。だって、この世界も、あの世界も、どれもが僕が救われたくて作り出した白紙の世界だ。美しい人々と、僕の描いた心象風景。
それが良かった。それで良かったんだ。救えないことに痛む心も、誰かを踏みつけて生きている事実も、抱えたまま生きられるようになってしまった。大人になったというのかもしれない。
罪悪感はある。けれど、後悔しようとは思わなかった。楽だからかもしれない。でも、それでいいのだ。
僕がそうであることで、喜ぶ人がいる。安心してくれる人がいて、笑ってくれる人がいる。
僕にはそれでじゅうぶんだった。
僕がこうでなければ、誰かとは話せなかったかもしれないし、誰かがそうでなければ、僕とは関わらなかったかもしれない。
反対に。僕がこうであるから関わらなかった誰かもいるだろう。
それで良い。良かった。だって、そういうものだ。そういうものだ、で、納得できるようになってしまった。
「―――僕も君も、あの日の僕たちではなくなったかもしれないけれど、」
「君にも、僕にも。これからも変わり続ける日々にも、暖かな祝福があればいいなって思うんだ」
「もっとも、そんな高尚なことは出来ないんだけど……」
「……それで、良いんだと、思えるようになった。こうやって祈ることこそが、誰かにとっての救いで、祝福なのかもしれないな、と」
「それが、僕が旅で得た答えだよ。」
誰にでも無く旅人はそう言う。風が吹いている。
覚えている。
ガラスペン。青い炎のランタン。使いかけの絵の具。鏡の破片。
濡れていない傘。忘れ去られた鍵。使われなかった消しゴム。誰かの日記。
後悔も、温もりも、悲しみも、穏やかさも。
寂しさも、喜びも、怒りも、醜ささえすべてを抱きしめて、僕は生きていくことにした。
それが、誰かにとっては悪い決断かもしれない。それで良かった。だって、人は間違う生き物だ。
僕は、旅を経てなお、神様にはなれなかった。
だから、人として。
人として君たちに祝福を贈りたいのだ。
―――僕と出会ってくれてありがとう。そして、
どうか、君たちの旅に、なにかしら美しいものが在ればいい。
もっともっと素敵で、もっともっと美しい、たくさんの楽しい思い出を詰め込んで、そのまま穏やかに一生を終えてほしい。
そうだ。
また会えたらいい。きっと君のことも、一生分覚えていようとしたとして、いつか忘れてしまうかもしれないけど。
忘れてしまっても、残るものはある。あるんだ。例えば、僕の旅の答えが見つかったみたいに。
旅が、地続きで続いていくみたいに。
僕はそれで満足することにするよ。
君たちの旅に、たくさんの祝福が降り注ぎますように!
そして、たくさんの愛が、君たちの周りにあふれていますように。
いつの間にやら草原にたどり着いた旅人の足元からネモフィラの花が広がっていく。
ああ、もうこれ以上の魔法は使えないけど、きっといつか、ここにも生命が生まれるのだ。
穏やかな気持ちだ。なにもかもを、僕一人で救わなくてよかったんだ!
僕は一人じゃなかったんだ。
地面に倒れこむ。旅の疲れか、体力が尽きていた。
でも、きっと旅は終わらない。
この世界は、続いていく。
さようなら、またいつか。
今度は、人間として。もっと君と、怒ったり、泣いたり、笑ったり、悩んだりして、対等に話ができますように!
星がちかちかと瞬いて、まるで返事をしているみたいだった。畳む
補足 >255