灯利うみ
@ao_kzr
イラストレーター
一次創作好き
雑記置き場

よく来たな!

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    2026/05/13 19:20:34
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ふたつの翼、ひとつの空 
9話 7521文字

 耳元で、最大限に小さくされた目覚まし時計が鳴る。ウィンドグライダー―――アルヴィのため、相当早い時間に一度起きて世話をするのがマシューの日課だった。
 この時間はまだリアムも寝ている。最近はたまに目を覚まして一緒に彼らの手入れをすることも増えたのだが……今日はそうじゃないらしかった。ぐっすりだ。
「おはよう、アルヴィ」
 アルヴィは無口で不愛想なほうだった。それが個性ってやつなんじゃねえの、と、いつだかジゼルが言っていた。それまでは大きな反応を引き出すためにあれやこれやと頑張っていたが、そうじゃなくてもいいのだと気づいてからはそのままにしている。
「今日も林檎を持ってきたんだ。……そんな顔しないで、他のは売り切れてたんだよ」
 連日林檎で不服そうなアルヴィは、それでも受け取りはするらしかった。そんなところがかわいいんだよなあ、と撫でる。特に嫌がられはしなかった。機嫌が良いようだ。
 彼とも随分仲良くなったものだ。その一方で、アルヴィと関わるたび思い出すのは母親のことだ。はあ、と思わずため息を吐けば、アルヴィがそれに反応してこちらを見た。なんでもないよ、と笑っても、彼はしばらくこちらをじっと見ている。―――ああ、アルヴィのこういうところはすごく分かりやすい。心配をかけているなあ、と思わず苦笑した。
「はよー。毎日毎日はえーな……」
「わ、おはよう。もう習慣だからね」
 後ろから声がかかる。リアムだ。ふわあ、と大きく欠伸をした彼のもとに、ノーヴァがやってきて頭を乗せる。リアムももう慣れたもので、朝の挨拶をしながらその頭を撫でてやるのだった。
「なんか落ち込んでた?」
 そのままリアムがこちらに問う。アルヴィとの会話を見られていたのだろう。
「いや、落ち込んでたっていうか……。両親のことを考えてたんだよ、どうしたらわかってくれるのかなあって」
「ふうん」
 それからしばらくリアムは静かだった。ノーヴァにご飯を渡し、簡単に毛づくろいをする。その隣でマシューもアルヴィの体を綺麗にしてやる。わざわざ深入りしてこない空気が心地よかった。
「そういえば、」
 リアムが口を開く。
「サーヤが心配してたぜ。お前のお母さんのこと」
「えっ」
「なんつったかなあ、なんか気がかりなことがあるんだとよ。―――ああ、あれだぜ、こないだの授業で話す機会があったから知ってるだけ」
 なんでそれを知ってるのがリアムなんだよ。少しだけ漏れそうになった疑問はあっさりバレて、訂正されたのが少し恥ずかしくなった。そういえば、サーヤとは最近あまりゆっくり話していない。
「母親にも母親の苦労があんのかねえ、それでも俺にはわかんねえや」
 それだけ言って、リアムはもうひと眠りするからとその場を去った。それを見送ってから、マシューは母親のことを考えながら、アルヴィと並んで、ぼうっと空を見ているのだった。

   *

「おはよう、マシュー。ちょっといいかな」
 教室に着いた矢先、イズミ先生はマシューを呼び出した。不思議そうな顔をした四人を置いて立ち上がる。なんかしたんすか、と野次を飛ばすジゼルに否定を返す。
 イズミ先生は隣の空き教室までマシューを連れて行くと、小さくため息をついた。
「マシュー。お母さんがね、授業を見学したいんだってさ」
「えっ」
 どういう心境の変化なんだ。彼女の意図を図りかねていれば、だよねえ、とイズミ先生も同調する。
「でも、今までに比べるとなんだか随分しおらしかったよ。君が嫌ならもう少し交渉してみるけど」
 早朝のリアムの言葉が頭をよぎった。マシューは意を決してイズミと目を合わせる。
「いえ……。一度、母と話してきてもいいですか?」
 イズミ先生は頷いた
「君がそう言うならそうしよう。応接室にいるよ、今はレナード先生が対応してくれてる」
 わかりました、と頷く。マシューは、そのまま教室を出て、応接室まで行くことにした。

   *

「失礼します」
 カタン、と音を立ててマシューが扉を開ければ、イズミ先生の言葉通りレナード先生と目が合った。
「おお、マシュー」
 レナード先生が椅子を勧めてくれたのをありがたく受け取って座る。その間、母は一言も発さなかった。
「マシュー、貴方は……」
 母は何かを言おうとしては口を閉ざす。マシューは静かにそれを待った。
「いえ、……お父さんがね、あの、姫様と会った日からおかしいの。マシューにはマシューの人生がある、って……。だけど私、やっぱりあなたには絵を描いて欲しいの、あなたの絵が好きだったから。それは、……お父さんも、きっとそうだった」
 でも、と、再び口を閉ざす。しばらくして、再び口を開いた。
「あなたは、そうじゃないって言うから……」
 困ったように視線をうろつかせて、母は問う。
「あなたは、もう絵は描きたくない?」
「そんなことないよ」
「じゃあどうして、」
 沈黙。静かに息を吸って、マシューは答えた。
「もっと好きなことがあるからだよ」
「……」
 何度も話したのに、まだ分かってくれないのだろうか。どうすれば分かってくれるのだろうか。マシューが悲しい顔をしているのを見て、母親は首を横に振った。
「違う、そうじゃないのよ、そうじゃない」
 落ち着かせるように母はしばらく深呼吸をして、マシューに目を合わせた。
「私、あなたには才能があると思ってるの。いつでも絵に戻ってきて欲しい。―――これは、私にとっては変わらない。私たちの家柄なら、騎士になるより楽に幸せになれると思ってる。これも、本当」
 けれど。目を合わせたまま、彼女は言う。
「あなたがやりたいこと、何も知らないまま否定するのは違うって、……言われて」
 そうして彼女は気まずそうに目を逸らした。
「だから、知ろうと思ったの」
 最大限、歩み寄ろうとしてくれているのだろう。マシューは思った。信じられないくらいの進歩だった。先生方は、後ろで静かに見守っている。
「……分かった」
 母は顔を上げた。マシューは立ち上がる。
「先生方の迷惑にならないなら……僕も、そのほうが嬉しい」
 どうですか、と先生方を振り返れば、うんうんと頷かれた。
「子供が迷惑なんて考えなくていい。……ここの先生方は、みんなそう言って歓迎してくれるはずだ」
 ヴェルタ先生も頷いている。マシューもなんだか安心して、照れたように笑った。

 そうしているうちに、授業開始のチャイムが鳴る。今彼でも準備をしてきなさいとマシューを教室に返した後、ヴェルタ先生は茫然とそれを見守る彼女に声を掛けた。
「彼の……確実な幸せを願ってのことだったんですね」
「……」
「親って、そういう生き物ですよね。親の心子知らず、なんて言葉がありますが……子の心親知らず、でもあります。ちゃんと知ろうとしてくれるなら、私たちも歓迎しますよ」
 大変だったでしょう、認めるまで。
 素直な労いだった。悪意がないのはなんとなく分かったので反発はしなかったが、なんだかむずがゆくて、自身の親のことを―――彼女が子供だった頃を、思い出した。

   *

「―――というわけで、今日はウィンドグライダーちゃんたちのお手入れがしっかり出来てるかをチェックするよー!」
 ティア先生が高々と宣言する。曰く、彼らも生き物なので、ちゃんと必要な世話を出来ているかは上手く飛ぶのに大切な要素らしい。
 とはいえ、マシューの母親に配慮した授業内容であることも間違いないのだろう。
「お前のかーちゃん、今度はどういう風の吹き回しなの」
 見学に来ている母を視線だけで指しながらリアムが言う。マシューは、さあ、と答えながら首を傾げた。彼女の急な心境の変化に戸惑っているのは、マシューも同じだった。
 サーヤは心配そうにマシューを見た。シーアも同じように様子を伺う。マシューは二人を安心させるように微笑んだ。大丈夫だと頷く。シーアはそれで視線を元に戻したが、サーヤは心配そうなままだった。
「まあ。でも。話を聞いてくれる気にはなったみたいだよ」
 よく分かんないけど。それを聞いたリアムはふうん、と頷いて視線を戻した。こんな会話の間もティア先生は次々に生徒たちの間を回りウィンドグライダーの様子をチェックしてはアドバイスをしている。彼女のアドバイスは的確だった。
 シーアはちょっと無茶をさせすぎ。サーヤは偏ったご飯を食べさせすぎ。ジゼルはもっと甘やしてあげなさいと言われて首を傾げていた。
「ハイ次、リアム!」
 呼ばれたリアムが少し姿勢を正す。ふむふむとティア先生は上から下までノーヴァを見た。
「思ったより良い感じじゃん? 入学して飛び始めた当初はもうほんとにどうなることかと思ってたけど……」
 最近は結構仲良くしてるもんね。はあ、そうですかね、と愛想のない返事をしたリアムの頭にはノーヴァの頭が乗っている。照れちゃって、とからかわれて居心地が悪かった。
「しいていうなら栄養バランスとか考えてあげなさいね。まだ全然詳しくないだろうから、また今度授業で教えてあげるよ」
 リアムはありがとうございます、と一礼をした。うんうんと頷いたティア先生は、ナユタの方にも歩いていく。
「ナユタは……、あらあなたも、思ったよりいい感じね。彼との付き合いには慣れた?」
「はい、それなりには」
 うんうんと頷く。大切にしてるのがよく分かるわ、と彼女が言えば、ナユタはどこか嬉しそうに顔をほころばせた。
「今は言うことないかな。いっぱい大切にしてあげてね」
「はい」
 そして、とマシューの方へと歩いてくる。自信はあったが、心配でもあった。ティア先生はそれを感じ取ったのか、安心させるように微笑んだ。
「貴方は心配いらないと思ってたけど、本当に問題なさそうね? むしろ何か困ってることはない?」
「……最近は……。彼らのためのご飯の争奪戦が激しくて、なかなかバランスを取るのが難しいですね。それくらいかな」
「分かる~!! もっと市場広げてくれたっていいのにねえ。うんうん、まあいつか慣れるわ。よくなついているみたいだし、問題なし!」
 よしよし。と言いながら他の生徒たちにも確認を取っていく。終わった生徒たちは好きなように(とはいえウィンドグライダーの話題が多いが)話していて、ふう、とため息をつく。
 いつの間にか近くにいたサーヤがそれに反応した。
「マシューくん、あの……」
「ああ、サーヤさん。……リアムから聞いたよ、心配してくれてたんだってね」
「うん。リアムくんも心配してたよ」
 頷く。あれは素直じゃないだけだと、長い付き合いでようやくわかってきたことだった。
「あのね、お母さんのことなんだけど。……もしかしたら、ちゃんと追い詰められてるのかもしれないなと、思って」
 サーヤはそう前置いて、以前の彼女の様子について話した。
 ―――あなたも、私が悪いって言うの?
 そんなことを、言っていただろうか。少なくともマシューの記憶にはないが、彼女が言うならそうなんだろう。彼女がこんなところで嘘をつくような性格でないのはちゃんと知っていた。
 そうしているうちに授業が終わる鐘が鳴る。ティア先生は慌てて生徒たちに休憩を取るように伝えた。
 次の時間はこのまま飛行訓練だ。とりあえず一息つこう、と、水を取りに行くことにした。

   *

 子供の頃、父は、あんまり家に帰ってくるような人ではなかったと記憶している。
 重要な行事の日だけ帰ってきて、気づいたらどこかに旅立っている。聞くたびにお仕事よ、と教えてくれる母は、いつも何かに追われていた。
 それでも、母はよくマシューに画材を与え、一緒に絵を描く時間をひときわ大切にしてくれていた。
 マシューが描いた絵を褒めてくれる時の、母の嬉しそうな顔を、よく覚えている。
「貴方には才能がある。いつか立派な画家になるのね」
 きっと私たちも追い越すような、素敵な画家に。今思えば、あれは彼女なりの祈りだったのだろう。

 ある日。本当になんでもない日に父が突然帰ってきて、マシューをウィンドグライダーに乗せ、少しの間、空の散歩をした。それまでは、王都ほどではないにしろ、そこそこ大きな家の立ち並ぶ住宅街に住んでいたので、飛ぶ必要がなかった。
 その分、衝撃は大きかった。
 父にあれやこれやと質問した。この風はどこから来るの。あの飛んでる花はなんで飛んでるの。この乗り物は生きてるの。生きてるってことはご飯を食べるの。好きなご飯は何?
 ちょこっと景色の話をした。その方が喜ばれると知っていたからだった。でも好奇心に負けて、気付けばウィンドグライダーの話ばかりを聞いていた。
 帰り際、父はこう言った。
「その気持ちを忘れないうちに絵を描きなさい。おまえには絵の才能がある。ほかにやりたいことができるならその時は、母さんには隠すようにしなさい」
 どうして、と問うても答えは返ってこなかった。静かに頭を撫でて、飛び去って行く父を、姿が見えなくなるまで見守った。
 その背中が少しかっこよく見えたのと同時に、父が自分たちを置いてどこまでも飛べてしまうことが、なんだか寂しかった。

 その日の授業の終わりを知らせる鐘が鳴る。ヴェルタ先生は、ちょっと時間が足りなかったですね、なんて言いながら授業を終えた。いつも通りだ。
 授業が終わるや否やリアムはしれっと教室を抜け出した。お手洗いだろう、と判断して、近くにいたシーアとサーヤに声を掛ける。
「シーアさん、サーヤさん。リアムとジゼルに先に帰ってって伝えといてくれる?」
「え、それ俺に直接言えば良くないすか」
 ジゼルがひょいと姿を現す。面倒だったのでマシューは笑顔のままその場から抜け出した。シーアとサーヤは目線を合わせてからシーアが口を開き、ジゼルにこう言った。
「先に帰ってって、マシューが言ってるわよ」
「はー!? 無視すか、ちょっと!」
 不満たらたらなジゼルの声が後ろからついてくるのを無視して母親のほうに歩いていく。母親は心配そうにマシューを見た。
「良かったの?」
「うん、いつもこんなだし、彼も分かってるよ」
「そう、そうなの……」
 母は何を言ったものか迷っているようだった。マシューも何を言えばいいかわからなくて、ひとまず、と切り出す。
「疲れてない? まだ体力が残ってるなら、見てほしいものがあるんだ」
 母は少し悩んでから、ついてくることに決めたようだった。頷く。
 マシューも頷いて、教室の外に出た。アルヴィのことを知って欲しかった。

   *

「アルヴィ」
 呼びかければ、バサバサと音を立てて彼はマシューの近くに降り立った。
「近くで見ると思ったより大きいわね……」
 母は少し瞠目して、それからまじまじと見た。確かに、彼女はウィンドグライダーを毛嫌いしていたので、近くで見ることは少なかったかもしれない。
 ―――彼女にとっては。
 ウィンドグライダーは父を奪っていく邪魔者だったのかもしれない。いつかの自分と同じようなことを、母も思っていたのかも。
 ぼんやりとそんなことを考えた。
 そうであるなら、彼女にとっては、僕も、同じなのだろう。
「……紹介するよ。彼はアルヴィ、僕のウィンドグライダー。―――パートナーだ」
 母は戸惑ったようにしてから、会釈をした。アルヴィもそれを真似る。彼は彼なりに、マシューたちの関係性を心配してくれていたので、気を使ってくれているのがマシューには良く分かった。
「彼は、林檎よりは、蜜柑とか、柚子とか、柑橘系のおやつをとても好むよ」
 アルヴィを撫でながら、ポツリ、ポツリ、言葉をこぼす。撫でられるのは首周りが好きなこと。こちらを心配する時はじっと様子を伺ってくること。感情表現が少し分かりにくくてたまにちょっと困ること。彼らも生き物で、僕らも生き物だ。でも、ちゃんと違う個体だから、知ろうと思わなければ分からないことがあることを。
「……―――」
 母は黙っていた。相槌を打ちながら、なんだか目の前のマシューが知らない人のように楽しそうなのを見て、彼とアルヴィが確かにお互いを信頼しているのを見て、悔しくなっていた。
 ああ、わたしのマシュー。あなたは一人で勝手にどこかに行ってしまうのね……。
 悔しくて目を伏せる。それでも、前を向かなければならないことは分かっていた。
「―――分かったわ」
 マシューと目を合わす。マシューは少し緊張した面持ちになった。それがなんだか嫌で、でも、自業自得であるのも事実だった。
「私、あなたのこと何も知らなかった。彼……アルヴィと遊ぶのが好きなのは知ってたけど、あなたたちがこんなに仲良くなってるなんて」
 そして、息をつく。
「ウィンドグライダーが好きだなんて、ありえないと思っていたの。お父さんはそれを口実にあなたを置いていくから」
 でも、と顔を上げる。
「それは私の尺度だった」
 悔しいけれど、事実だった。
「ごめんなさい、マシュー。私、もうあなたの夢に口は出さないわ。一人で好きなところに飛び立てばいい。それがきっと、私に求められることなのね」
 マシューはしばらく黙って何事か考えてから、口を開いた。
「……、僕、母さんのことも、父さんのことも守れるようになりたいんだ」
 突拍子も無い言葉だった。マシューは続ける。
「空賊の取り締まりは強化され続けているし、それ以外の脅威は、少なくとも王都セレスティアには無い。それでも、人が織り成す歴史の中で、争いは沢山あったから」
 目を伏せる。王都セレスティアは大きな都市だ。―――それは、今まで、争いに勝ってきたからでもある。
「父さんと母さんが自由に絵を描く場所を守りたいんだ。父さんと母さんの絵が好きだから。もちろん自分の絵も好きだけど……」
 しばらく言葉を探す。やがてマシューは口を開いた。
「自由に絵が描けない世界になって欲しくない。少なくとも、僕が生きている限りは。いつだって他人のことは分からないし、情勢だってどう変わっていくか分からない」
 だから、と言葉を続けた。
「僕は騎士になりたい。―――でも、母さんを一人にするつもりでもない。そのつもりだよ」
 母はしばらく言葉を失っているようだった。しばらく視線をうろつかせて、少し困ったように微笑んだ。
「……子供の成長は早いっていうものね」
 それだけ言って、母はあっさり帰って行った。
 マシューが安心して教室に戻る。誰もいないかと思ったが、ヴェルタ先生がマシューを待っていた。いつもよりどこか険しい顔つきのヴェルタ先生は、落ち着いて聞いてくださいね、と前置いてからこう言った。
「―――シーアさんとサーヤさんが襲われたらしくて」
 頭が真っ白になる。襲われた? 誰が? ―――二人が?
「もちろん、事態はイズミ先生が把握していたみたいで、無事ではあるんですが……」
 念のためね、と話すヴェルタ先生は、マシューの帰り支度を促した。慌てて支度をして教室を出る。怪我はしていないだろうか。尋常じゃない事態がなんだかとても心配で、心臓がばくばくとしていた。
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